すらすら日記。

すらすら☆

メタップス 四半期レビュー報告書を読む。

提出期限を1か月延長していたメタップスの四半期報告書、2月14日にEDINETで公開されました。

EDINET メタップス 四半期報告書

四半期報告書は、東京証券取引所で開示される決算短信とは異なり、金融商品取引法による法定開示書類であり、会計監査(レビュー)を受けなければなりません*1

こちらにも、PwCあらた監査法人による四半期レビュー報告書が付いております。
リンク先の「四半期レビュー報告書」をご覧ください。

まず、結論です。

監査人の結論

監査法人が実施した四半期レビューにおいて、上記の要約四半期連結財務諸表が、国際会計基準第34号「期中財務報告」に準拠して、株式会社メタップス及び連結子会社の2017年11月30日現在の財政状態並びに同日をもって終了する第1四半期連結累計期間の経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適正に表示していないと信じさせる事項がすべての重要な点において認められなかった。

二重否定を用いたまわりくどい言い方ですが、四半期報告書は重要な点では誤りがない、つまり正しいという意見を監査法人は述べております。
この二重否定による記述方法は、レビュー報告書の「ひながた」であり、どのレビュー報告書でも同じです。なんとなく怪しい、ということを言っているのではありません。

さて、レビュー報告書には詳細な「強調事項」と「その他の事項」が付いております。
これは、利用者(投資家)が四半期報告書を理解するために関連する事項とされるものです。リンク先をご覧ください。
www.hp.jicpa.or.jp

その他の事項は詳細ですが、こちらが目に付きました。

ブロックチェーン技術は、取引参加者の合意を通じて取引を検証することを基礎としている。取引参加者が取引を検証するために全ての取引及び必要なその他の情報を、公開アドレス(公開鍵)に紐付けることにより、取引参加者の個人情報を都度明らかにすることなく、取引を可能にしている。公開アドレスには、取引を実行するために秘密鍵が必要であり、秘密鍵へアクセスできれば、公開アドレスで保有されている仮想通貨へアクセスすることが可能である。秘密鍵の所有者は、資産を保全するために、通常、他者に秘密鍵を開示しない。他方で、秘密鍵を所有者が開示したとしても、当該秘密鍵を公開した者が所有者であることを証明することができない場合がある。このため、あるブロックチェーンアドレスから別のブロックチェーンアドレスへの仮想通貨の移動や暗号化メッセージの送信等により秘密鍵を利用した公開アドレスへのアクセスが実証できても、秘密鍵の所有者によって行われたことを証明することは、極めて複雑で技術的な問題を伴うことになる。

タップスは、韓国の子会社がICOで仮想通貨イーサリアムを取得し、期末現在、所有していると主張し、それをもとに財務報告を作成しています*2

あらた監査法人は、メタップス秘密鍵を持っていることをもって、仮想通貨イーサリアムの所有者であるとはレビュー手続のうえでは断言できない、ただし、通常は秘密鍵を第三者に公開することはないので、所有者と推認される、というレベルでしょうか。

最後にこう述べています。

監査法人は、会社が所有者であると主張する公開アドレスへのアクセスの検証とその他の手続を実施し、第1四半期連結累計期間に発生した会社の仮想通貨取引量が少なく複雑性が低いことに鑑み、第1四半期連結累計期間の要約四半期連結財務諸表の四半期レビューの結論の表明の基礎を得たと判断している。

まあ、金額の重要性が乏しいから、メタップス側の主張を受け入れるというニュアンスでしょうか。

このほかにも、レビュー報告書には興味深い記述がいろいろ詳細に書かれています。

タップス代表者が主張するような、「会計処理2.0」は実在するのでしょうか。

私は代表者氏にブロック食らっていますが、著書と公開された財務報告は継続して読ませてもらおうと思います。

彼らの未来を楽しみにしております。


*1:監査とレビューは異なる手続ですが、専門的になりますので本稿では触れません。

*2:先日話題になりました通り、イーサリアムは取得原価でバランスシートに計上されており(単価35千円)、含み益は計上されていません。

掲げる理想と足元の現実の狭間で。

組織の上に立つ人は、「こうありたい」「こうあるべきだ」という高い理想を掲げて組織を動かそうとします。

それに対し、現場で実務をやっているスタッフを預かる中間管理職は、そんなあるべき論と手持ちの戦力でできそうなことのギャップを比べてため息をつくことに。

もちろん、営利目的であれ、非営利であれ、組織の現実だけにこだわってちまちま改善だけをやっていても大して先には進めません。

なので、トップが現実に拘泥せず、高い理想を掲げるのはある程度は必要でしょう。

しかし、現場を動かす中間管理職が現場を無視して、その高邁な「あるべき論」をストレートに部下にぶつけてしまえば、多くの場合、組織の破綻が待っています。

組織運営というのは、掲げる理想と足元の現実を「足して2で割る」のではなく、手許にいる人材、資金力、組織を囲む環境を考えたうえでどう組み合わせたら理想に近づいていけるのか、試行錯誤していくものじゃないかと。

まったく現実を見ずに「あるべき論」だけを並べ、空想の中で生きているような人々をみるに、そんなことも感じておりました。


得意なことが「何もない」人の生きる方法について。

テクノロジーの発達によって、世界はすっかり変わりつつあるようです。

従来の概念でとらえられている「働くこと」では生活の糧を得られなかった人にも平等に機会が広がっている。

事実、そういう方法で立ち上がる人々もそれなりの数で目に付くようになりました。

この本を読みました。本書の内容については既に多くのレビューが書かれておりますので、要約のようなことは書きません。

ここでは、少し私が感じたことを。

「好きなことで生きていく」というフレーズ、前ほどではありませんが、良く目にします。

これらの言説の主張、それぞれ異なる部分はありますが、大きな筋立ては次のようなものでしょうか。

寿命は80年どころではなく、100年続くのだから、一つの会社に勤めて一つの仕事だけを続けられるはずがない、ならば、自分の好きなことをやり抜いて、それを仕事とし、生活の糧を得る方法を考えよう!、と。

また、「働くこと」がそもそも苦手でも、相互扶助と相互承認でゆるく生きていく方法もある、というお話も何度か読みました。
こちらなどですね。

なるほど、従来の常識がもはや通じないというのは明らかです。

でも、こんな人はどうしたらいいのでしょう。


企業に勤めて、労働市場で働くことで生計を立てることはできない。

特にやりたいこともないし、得意なことも好きなこともない。

コミュニケーション能力も欠落しているので、他者と助け合って相互承認しあうとかも苦手。



行き場のない、「得意なことが何もない人」というのがたくさん存在するのではないかと。

ほんの短い時代でしたが、特別な才能も努力もせずとも、「付いていくだけ」「波に乗るだけ」、それだけで生きていけた幸福な時代もありました。

私自身も、その最後の波に乗れていたようです。

でも、やがて勤務先の業態も衰退の道を歩み、私自身も年老い労働市場では価値が低下していくことでしょう。
今はwebにいろいろ書き込んで、コミュニケーションと承認を得られてはいますが。

私もいずれ「得意なことが何もない」人になるのかもしれません。

その先には、どんな未来が待っているのでしょうか。


無料で学べる証券投資理論の講義ノート。

社会人が、独学で新しい分野を学んでいくのはなかなかつらいものです。

教科書を読みすすめていても、当然の前提知識などは説明が省かれていることもあり、周りに質問できる人がいないと詰まってしまうことも。

こんなとき、指導してくれる教員がいればなあ・・と嘆息したりもしますが、実際に大学・大学院へ講義を聴きにいくのは仕事をしながらでは難しい・・

ときに、最近の大学教員の個人HPでは、講義資料が公開されていることも多いです。

実際の講義に使用されているものですので、学び始めた学生さんの理解を助けるようにわかりやすく書かれております。

私がこの頃、勉強している証券投資理論・ファイナンス理論の講義ノートが公開されているのをみつけましたので、ご紹介いたします。

関西大学・太田浩司教授の「企業財務論」講義ノートです。
太田浩司の会計・ファイナンスホームページ
サイト左側の「企業財務論講義」に掲示されています。

サンプルPDF 第7章 財務諸表分析
http://www2.ipcku.kansai-u.ac.jp/~koji_ota/Lecture_Kigyouzaimuron/kigyouzaimuron2010_07.pdf

ぜんぶで30コマ分ありますので、4単位の講義ですね。
以下の構成になっております。

1~4章 日本の企業市場(株式・債券)
5~6章 産業分析
7~11章 財務分析
12~13章 株式分析
14~18章 ポートフォリオ分析
19~20章 ポートフォリオ・マネジメント
21~24章 債券分析
25~30章 デリバティブ分析

こちら、証券アナリスト試験の「証券分析」(一次レベル)の出題範囲とほぼ同じですね。
これからアナリストの勉強を始めようとする方、興味があるけど、自分に向くかわからない方。
また、学習を始めたけどわからない部分がある方。
もちろん、資格は取らないまでも証券投資理論に興味がある方にも。

講義資料の後半には、穴埋めや簡単な計算問題も付いています。残念ながら解答はありませんが、講義ノートの説明と例題に沿っておりますので、じゅうぶんに自習できることかと思います。

ざっと見たところ、14~18章、19~20章のポートフォリオ理論のところがいきなり数式ドーンで、説明があまり詳しくありません。

こちらについては、このテキストをおすすめしたいと思います。

現代ポートフォリオ理論講義

現代ポートフォリオ理論講義


学ぼうと思えば、いろいろツールがありますので、ぜひ。


「誤解を招く表現でした」という謝罪作法について。

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「これでいいのか。」

投稿を読んだとき、ぎょっとしました。政治的意見は自由であり、何を主張しようともそれはかまいません。
しかし、自分の政治的意見=イデオロギーに沿わない事象に関連したことであれば、直接的には関係のない受験生にまで非難しようとする。

案の定、この投稿には厳しい批判が巻き起こりました。

この投稿は削除され、以下のものに差し替えられました。

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「誤解を招く表現であり、お詫びして削除します。」とあります。

この謝罪文を読むと、毎日新聞はこういうことを意図しているのではないかと思われます。

毎日新聞としては受験生を誹謗中傷するつもりはない。しかし、政治的意図でそれを曲解して非難された。」

「誤解する人々が悪い。自分には悪意はなかった」

これは、謝罪という形をとってはいますが、相手をバカにしているとも感じられます。

「思わず悪意を剥き出しにしてTwitterに投稿してしまった。この表現は政治的な争いとは無関係な受験生を誹謗中傷するものであり、新聞社としてあるまじき表現であったので、謝罪して削除いたします」

こうではないでしょうか。

「誤解を招く表現でした」と言い張れば、表現者はどこまでいっても善意であり、他者の内心を覗くことは不可能である以上、謝罪は不要となります。

人間は、無謬ではありませんし、理由のない好悪の感情を晒してしまうこともあります。

他者からは見えない内心であるとしても、誤りがあれば謝罪する。

私としては、自己の良心を守るために、そうしたいと思います。


善意による包摂よりも、お金で割り切れる関係を。

本日のお題はこちら。

人を大切にする経営学講義

人を大切にする経営学講義

「世界でいちばん大切にしたい会社」シリーズで著名な坂本光司教授による「人を大切にする」経営学の講義です。

おそらく、中小企業経営者に向けたセミナー、講演や講義録を再構成したものではないでしょうか。
テーマ別に章立てされていますが、ところどころ重複した記述がありますので。

結論から申しますと、坂本教授のご意見には賛成できません。

本書では、「人財を育てる」「大家族的経営」「全員参加経営」「全社員が共感できる企業理念」など、有り難い、いえ、嫌味ではなく、文字通り存在が難しいようなお話が続きました。

先ほど挙げた「人を大切する経営」ですが、具体性は何もありません。

ここからは推測ですが、坂本教授の理念を有り難がって取り入れようとするのは、多くは、ある程度経営に余裕がある中小企業経営者ではないかと。

何か、自分も「良い経営をしたい」。

そこで、著名な坂本教授の講演を聴きに行く。

坂本教授はこういう提唱をします。

経営者の掲げる理念に没入して労働者が、全人格的に生きがいとして仕事に打ち込む。

先頭に立つのは、講演を聴いてうなずく経営者自身です。

そういう仕事のあり方もあるでしょうし、個人としてそういう選択を自主的に行うことを止めはしません。

でも、そういうことに興味すらなく、ただ仕事をして、生活の糧である給与を得られればそれでよいという考えの労働者はどうしたらいいのでしょう。

人間なら、誰でも仕事のやりがいを求めているはずだ、という大前提があるようです。

坂本教授のそのような人間観は、最後の部分に出てきますので。

しかし、それを最初から望まない人にとって、企業という場に「包摂」されてしまうことは地獄ではないでしょうか。

しかも、経営者は「人を大切にする」として善意なのです。

これは、悪意をもって囲い込まれるよりも、表立っては反論・逃亡しづらいかもしれません。

企業は、人が集まって仕事をするために作り上げたものに過ぎず、全人格を没入するかどうかは、選択できる方が望ましい。

私は、そう思います。

企業経営者は、ちゃんと人として尊厳をもって生きるに足る給与を労働者へ払う。

お金で割り切れる関係。

働く場所である企業と労働者個人の関係。

私としてはそれでじゅうぶんだと思います。


企業金融の仕組みをやさしく学べるテキスト。

本日のお題はこちら。

企業金融に関するテキストはいろいろなものが出ております。

一般に、コーポレート・ファイナンスの教科書というと、米国のテキストの翻訳か、日本人の手になる本でも直輸入もので、株式と社債で資金調達するのが前提で、馴染みがない記号を使った数式がドーンときて前提がよくわからないまま進んでいく・・という現実感がないものが多いのかもしれません。

実際に中堅以下の日本企業では、銀行借入が資金調達の大部分であり、キャッシュ・フロー経営などというものではなく、「毎月・毎日の資金繰りをどう回していくか」という問題が大きな割合を占めるのが現実であります。

その金融実務の現実と、米国流のファイナンス本はなかなか結びつかないのが現状ですね。

本書は、日本の金融実務を踏まえて、「どうして企業は事業資金を必要とするのか」というそもそものところから始まり、基本的な銀行借入の仕組みから始まって、中小企業がよく利用する信用保証制度、少人数私募債、ベンチャーキャピタル投資事業組合の仕組みまで解説しております。

数式はほぼ登場しませんし、説明は平易で、経済学や会計学の前提知識がなくともじゅうぶんに理解できる良いテキストだと思います。

米国流のファイナンス本に挫折してしまった方でも、だいじょうぶかと。



著者の中島教授は、元日本銀行職員で決済システムの専門家です。
決済実務担当者のバイブルともいえる「決済システムのすべて」などの著者であり、最近はこちらも「アフター・ビットコイン」も上梓しておりますね。

こちらもぜひ。

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