ポジショントーク?
金融の世界で、自分の保有している株式・債券などの売建買建(ポジション)の値動きに有利に働くような発言を行うことを「ポジショントーク」って言います。
これは金融のみならず、発言する方はいろいろな立場があり、自分に有利な発言をするものだ、ということで使われています。
さて、こちらの書評を。
IFRSに異議あり (日経プレミアシリーズ) (日経プレミアシリーズ 123)
- 作者: 岩井克人,佐藤孝弘
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2011/05/19
- メディア: 新書
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世間で騒がれていたIFRS全面受入(アドプション)礼賛に反対して出版された本です。その後、本の出版後ですが、金融担当大臣のIFRS延期発言や、米国基準の維持が決定されたことはもうご存じのことかと思います。
この本自体は、IFRSに含まれている理論上の問題点について冷静に指摘しており、特に第三章で解説される資産負債アプローチから演繹される負債の公正価値評価による利益計上や、自己創設のれんの計上に至る流れについては非常に分かり易くまとめられております。
IFRSの理論からすると、負債の公正価値評価は当然であり、何ら違和感が無いということをこれほど明快に説明している本は初めてでした。*1
ただ、「IFRSは製造業には向かない」という論理展開は、やや説得力に欠けるように思われます。
しかし、ものづくり信者の奇怪な方々がこの論理を全面的に利用して、担当大臣を説得に使ったのでは・・と想像されるのは実に残念なことです。
この本を通読すれば、著者はそのような極論を肯定しているわけではないことがわかるはずなのですが。
アドプション延長発言の後では少々合わなくなっている部分はありますが、IFRSに関わる方々には論争の書としてぜひ、通読されることをお勧めします。
ただし、この本でも繰り返し主張されるように、IFRSに対して異議を唱えるならば、IFRS自体をよく理解し、本質を把握したうえで議論することが必要でしょう。
表層だけを利用してポジショントークを行うゆんゆんな方々の暴論をただすのは、やはり理に基づいた冷静な意見です。
意見形成のためにも、ぜひ本質を把握するための勉強を続けたいと思います。