その時々のそれぞれの「正しさ」について。
子犬を飼って欲しい、と子どもが親にせがむ時、
「ちゃんと散歩に連れて行く」
「飼うからには自分も生活態度を改める」など、
いろいろ約束をして部屋の掃除を始めたりするものです。
しかし、実際に犬が家にやってくると、最初の約束はどこへやら、散歩には連れて行かず自分の遊びを優先し、部屋も前のとおり散らかし放題。
飼う前のことばは、その場限りの嘘なのでしょうか?
さて、つかみはこのくらいでして、本日のお題はこちら。
- 作者: 田中慎一
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2013/08/26
- メディア: Kindle版
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いささか古い本になりますが、未読だったので今回読んでみました。
著者の公認会計士田中氏は、ライブドアの会計監査人として監査報告書にサインする立場でした。
田中氏が会計監査を担当するようになったのは、ライブドア「粉飾」事件の直接の容疑となった自社株売却益還流スキームや架空売り上げなどが実行されてしまったあとであり、氏自身は粉飾に加担したわけでも見逃したわけではありません。
同じくサインしていた久野太辰氏が証券取引法違反で在宅起訴されたのとは立場を異にします。
田中氏は、自社株スキームに利用された投資事業組合をライブドア宮内氏に迫って解散させるなど、それなりにライブドアを「まともな会社」にしようと努力していたようです。
本書では、一貫して自分が担当するのは遅すぎた、自分に責任はないとしており、それもおおむね、正しいのでしょう。
最後の部分では、プロの会計士としての心構えみたいな大上段の話も。*1
しかし・・
田中氏は、2008年に別の会社の事件で、虚偽の株価算定を行ったとして逮捕されています(関与が不十分として起訴猶予)。
ライブドア事件とは異なり、私は後者の事件については詳細は詳しくありませんので、逮捕の是非などについては断定的なことは言えません。
ただ、あれほど「立派なこと」を本書で述べていた田中氏が、わずか2年後にグレーな行為にかかわって逮捕という急展開についてです。
ライブドア事件の際はそれなりに使命感に基づいてなんとか会社を良い方向に向けようとし、株価算定ではグレーな行為に協力。
矛盾しているかのようにも思えますが、子犬を飼いたいと思って、心からの約束をしておきまがら、いざ実現すれば、子犬の世話よりも遊びたいというのを優先。
その時々でウソを言っているのではなく、それなりに自分の正直な気持ちに沿って、「正しく」行動しているのでしょう。
本書は、内幕本として守秘義務を超えた内容を世間に知らしめてくれました。
その中の「正しさ」はその場での本の中だけの正しさだったのでしょうか。