「ご説明」して「判断していただく」という儀式について。
標準的な管理会計・経営管理のテキストを読みますと、米国企業の多くがトップダウン方式で経営判断がなされているのに対し、日本企業の多くはボトムアップ方式で物事が決められて進んでいく、とも書かれています。*1
ボトムアップ方式の意思決定の方法として、稟議制度によって、スタッフ→係長→課長→部長→役員→社長というようにたくさんのハンコを積み重ねていくのも例示として挙げられますね。
部長や役員というのは、それぞれ決裁できる権限が決められていて、ハンコを押します。
それは、部長や役員は、自社の業務、内部事情に詳しいだけではなく、業界全体の動向にも通じ、広く国家社会から企業が要請されることまで理解して、大局的な観点から判断できる見識と能力を備えているとされるからこそ、その決裁権限を与えられているはず。
部長は部長のレベルで。
役員は役員としての見識で。
社長ならば、最上位の視点で。
稟議が回付されていくなかで、中間の管理職や権限者は、スタッフの起案した稟議のまずい点、至らない点を指導して直させ、高い見地で判断を下しくていくというのが建前ですね。
しかし、多くの場合、管理職に任命されている人物は、スタッフとして営業成績が良かったとか、人柄が良いとか、はたまた年齢が昇格年次にあたったからとか、よくわからない基準で昇進しているのが実情です。
スタッフ時代に優秀だったとしても、管理職になった頃にはその実務経験はすっかり時代遅れ。
職位にふさわしい見識なんて備えていないことも。
そのため、業務内容をいちばん理解している第一線のスタッフが、順番に、上位の役職者に「ご説明」をして、「理解してもらって」「なんとか上にあげてもらい」、決裁権限者に「ご判断いただく」という儀式が執り行われることとなります。
さらに、国際的な規制とか新しい法制度への対応とかになると、中間の管理職はその意味や対応する方法もまったく理解できません。
スタッフが、直接、役員や社長に「ご説明」してあげることもしばしば。
この場合、実際に決めているのは、スタッフです。
本来の稟議制度は無意味・無効化されていますね。
こうして、繰り返されるご説明の「儀式」にスタッフはヘトヘトになります。
しかも、組織の縮小により管理職ポストは減少。スタッフはいつまでもスタッフのままで、採用も少なく下の人はまったく入ってきません。
なんだか、若手がいつまでも苦労する、日本全体の縮図みたいですね。*2
本日の参考文献はこちら。
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