利益は粉飾できても、現金という事実は操作しにくいお話。
本日のお題はこちら。
- 作者: 前川修満
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/12/18
- メディア: Kindle版
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本書は、公認会計士である著者が、次のような公開されている有価証券報告書などのを読み説きます。
経営判断ミスで業績が傾いたり破綻してしまった企業(ソニー、大塚家具、コジマ、スカイマーク、江守HD)、
逆に再生に成功した企業(日産)や超高収益優良企業(キーエンス)など。
公認会計士の手になる本ですが、会計の専門知識が無くとも、すらすら読めるようにわかりやすく書かれています。
ただ、東芝の章は工事進行基準やのれんなど、会計の知識がないとちょっとつらいかも。
本書でも繰り返し出てくるのは、利益は経営者の判断(粉飾まではいかない会計操作)や不正行為である程度まではごまかすことができるのですが、現金の増減だけは操作できない、不正の兆候はキャッシュ・フロー計算書に現れるというものです。
その内容や読み解き方は本書を読んでいただくとして、なぜ、現金は操作しにくいかというお話を少し。
収益は現金の入出金では無く、代金請求権の権利確定(実現)などを基準とする発生主義に基づいて計算されますので、ある程度の見積り要素が入ります。
費用も同様に、現金の入出金では無く、発生主義によりますので見積りによる部分もあるわけです。*1
会計基準は一般に考えられているほど画一的な処理を求めているわけではないので、人間の判断の余地があるわけですね。
利益を前倒ししたい経営者は、収益は早めに、費用は先送りしたい誘惑に駆られるわけです。
これに対し、現金の入出金は預金通帳に入っている残高と、手元現金という事実ですから、人間の判断の余地は無く、動かしようがありません。
現金預金残高をごまかそうとしても、会計監査の際、残高確認手続といいまして、会計士から直接、取引銀行に残高を照合する手順があり、これをくぐり抜けるのは事実上、不可能です。*2
そのため、粉飾をやらかしていると、売上が増加して利益も増えているはずなのに、現金預金の流入がマイナス(減少している)・・という辻褄の合わないことが起こるわけです。
これは、利益は増加しているのに、キャッシュ・フロー計算書の「営業CF」がマイナスになっているということに着目するとわかりますね。*3
最後に私の畏友ブランクさん@blanknoteのtweetを引用しておきます。
会計士は見た!という書名も面白そうですが、会計士は見なかったことにした!という本があればもっと読んでみたくなる。
— blanknote (@blanknote) 2016, 2月 6
本書は軽妙な語り口で会計の専門家では無い方でも面白く読めますので、ぜひ。