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銀行のキャッシュ・フロー計算書を読む。(その3 まとめ編。)

さて、まとめ編です。
本日は残った財務CFの読み方と、3つのキャッシュ・フロー(営業CF・投資CF・財務CF)と「現金及び現金同等物」の増減の関係を説明いたします。

数字は最新の決算ではなく、昨年度の27年3月期決算のキャッシュ・フロー計算書を例示として使用していることにご留意願います。

www.mufg.jp

まずは、財務CFを読み解きます。
財務活動とは、事業活動に必要な資金を借入金・社債や株式で調達したり、それらを返済・払戻したりする活動を指します。財務CFには、株式に対する配当金の支払いも含みますが、借入金や社債への利払いは営業CFに含められますね。
銀行がその本業である貸出金・有価証券の運用に必要な資金の大部分は預金で調達されます。そのため、銀行の財務CFは主に事業資金調達のためでなく、資本政策*1のために行われている活動を表しております。
財務CFで主要な項目は配当金の支払いが非支配株主まで含めて約3700億円、それに自己株式の取得4,900億円があります。
その他を合わせると、約1兆円強の現金支出となりますね。


次に、3つのキャッシュ・フロー(営業CF・投資CF・財務CF)と「現金及び現金同等物」の増減の関係について説明します。

キャッシュ・フロー計算書の末尾の下から3行目、「現金及び現金同等物の増減額」を参照しますと、3兆円のプラスであることがわかります。投資CFは1兆円のマイナスですから、ざっくりと営業・投資・財務の3つのキャッシュ・フローと、現金の増減の関係を示しますと、次のようになります。

①投資CF 有価証券の取得よりも売却・償還が多かったため、6兆円の現金増加
②財務CF 配当金や自己株式の取得などで1兆円の現金減少
③営業CF 2兆円の現金減少。*2


①+②+③=+6兆円+△1兆円+△2兆円=期末現金3兆円の増加。

もちろん、これは説明の便宜のために並べたものであり、①②③の順番に現金が動いていったわけではありません。
銀行のキャッシュ・フロー計算書を読み解くと、資金の運用ポジション、すなわち負債と自己資本で調達した資金を、預け金・有価証券・貸出金などの運用資産へ「どこへ振り向け」「どう変更したか」「何が要因でどのくらいの現金の入出金があったか」という概略を理解できるようになります。

なお、運用ポジションのうち貸出金については、債務者(借り手)の信用さえあれば銀行は現金が無くても、貸出金を実行し、その資金を借り手の預金口座へ振り込むことで預金通貨を創造できます。

貸出金100億円新規実行を仕訳で表すと、下記のようになります。

(借方)貸出金 100億円/(貸方)預金 100億円

この仕訳には現金は登場しません。貸出金を新規実行するためには、第三者の預金者から新しい現金を調達して来る・手元有価証券を売却して現金化する・日銀預け金から日本銀行券を引き出してくることなどは、直接的には必要がないことをご理解ください。*3

最後に、「現金及び現金同等物」の説明をいたします。

「現金及び現金同等物」とありますので、銀行店舗内の金庫やATMに収納されている日本銀行券及び補助貨幣だけを表しているのではありません。

短信の「会計方針に関する事項」の「(18)連結キャッシュ・フロー計算書における資金の範囲」を参照しますと、「連結キャッシュ・フロー計算書における資金の範囲は、連結貸借対照表上の『現金預け金』のうち、定期性預け金と譲渡性預け金以外のものであります」と記載されています。これと、連結貸借対照表上の「現金預け金」23兆円のうち、17兆円が定期性預け金と譲渡性預け金であり、残額6兆円がキャッシュ・フロー計算書上の「現金及び現金同等物」に一致します。

この17兆円の定期預け金及び譲渡性預け金のなかに、営業CFで表示されていた13兆円の預け金の増加が含まれていると推測されます。これは、有価証券売却で一時的に増加した現金(実際には日銀預け金)を相対的に高い利回りが見込める預け金へ投資したものと推測されるでしょう。預け金ではそれほどの好利回りは見込めませんので、いずれ、有価証券投資へ振り向けられるかと。

「現金及び現金同等物」6兆円のさらなる内訳までは開示されていませんが、かなりの部分は日本銀行への預け金ではないかと推測されます。銀行は、母店から遠く離れた地域にある支店などの現金準備や硬貨両替などの目的で、他の銀行にも普通預け金・当座預け金を保有しておりますが、通常、これはごく少額であり、内国為替や有価証券売買の決済に使用される日本銀行預け金に資金が集中しているものと考えられます。


以上、3回に渡りまして、三菱UFJフィナンシャルグループの決算短信を題材に、銀行のキャッシュ・フロー計算書の読み方を解説いたしました。あまり膨大になっても読めませんので、私が着目した増減項目のみを解説しており、網羅的に説明しているわけではありません。その部分はご了承ください。

参考文献はいろいろありますが、やはりこちらでしょう。銀行経理実務家・銀行セクター向けの専門書であり、なかなか難しい書籍であるのでご注意ください。

銀行経理の実務(第9版)

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会計の専門家ではない方でも読めるキャッシュ・フロー計算書のお話なら、こちらがおすすめです。

会計士は見た! (文春e-book)

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次回は、銀行をめぐる税金と税効果会計について解説したいと思います。



*1:財務会計上だけの資本ではなく、バーゼル規制上の資本を含む。一定の劣後社債等もバーゼル規制上は資本となります。

*2:営業CFを分解しますと、預金調達と有価証券・貸出金の運用による現金収支として2兆2,810億円の現金を稼得。他に、運用資産・調達負債の増減等により現金△4兆円となります。+2兆円+△4兆円=△2兆円。大きな要因として預け金13兆円の増加(現金は減少)が挙げられます。

*3:審査基準を満たしているにもかかわらず貸出金実行ができなくなるというのは、手許現金の不足ではなく、銀行の自己資本が毀損して信用リスクを取ることができなくなるためというのが実相です。ただし、貸出金を実行すると、通常は付随して商取引決済のための内国為替取引が起きますし、他の資金決済に備えて貸出行動を抑制しようとすることも考えられますが、現在は日本銀行による大規模な金融緩和=流動性(現金)供給が行われており、銀行が資金繰りのために貸出を抑制することは考えにくいと思われます。

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