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ヘリコプターからお金をばらまけば、政府の利払い負担をゼロにできる?

最近、「政府の財政支出に必要な資金を国債発行ではなく、直接、中央銀行の資金でファイナンスすることで需要を拡大し、デフレから脱出する」=ヘリコプター・マネーというのが話題になっております。

これは、もともとはフリードマンが1969年に発表した「ヘリコプターからドル紙幣をばらまいたらどうなるのか?」という思考実験論文に基づくものです。
今年4月、バーナンキFRB議長がブログにヘリコプター・マネーについて書いたことで、注目が集まることになりました。

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本稿は、7月25日の週刊金融財政事情に掲載された翁邦雄・京都大大学院教授の記事を基に、「ヘリコプター・マネーによって政府の利払い負担をゼロにできるのか?」という論点を中心として、同記事の一部を参照して、私なりにまとめたものです。*1

ヘリコプター・マネーは、金利ゼロの紙幣をばら撒くことで実施できるので、政府の利払い負担も減少させることができる=コストが無いとも主張されます。
さらに、近年行われているような赤字国債発行による財政支出拡大は、将来の増税を予想させ、消費を抑制する効果もある(いわゆる非ケインズ効果)とされていますが、ヘリコプター・マネーは現在も将来も増税の必要性が無いため、非ケインズ効果も起こさないとも説明する論者もいるそうです。

これは、本当でしょうか?

まず、前提として、ヘリコプター・マネーの目的は2%のインフレ目標達成=経済の活性化です。
経済が活性化して物価が上昇すれば、自然に、金銭に対する需要の強さを表す金利も上昇していくものと考えられます。この時の日銀の短期金利誘導目標も2%と置きます。*2


最初に、この頃よく見かける議論として、民間が保有する国債は激減し続けているため、統合政府(政府+中央銀行)でみれば国債が減少し、財政状況は劇的に改善しているとの論法があります。
論者によっては、政府の負債である国債は、中央銀行の資産であり、あたかも財務会計上の連結決算のように国債は「相殺消去」され、この世から消滅してしまうとの考え方もあるようです。
しかし、民間銀行は、国債の代わりに日本銀行当座預金を受取ります。これは国債を「連結相殺」した後も、統合政府の負債であることに変わりはありません。
異次元緩和による国債買入は、政府債務を消滅させるものではなく、統合政府の債務を国債から日銀当座預金に置き換えし、期間構成を短期化しているものに過ぎないという前提を念頭に置いてください。

日本銀行当座預金は現在、マイナス0.1%~プラス0.1%で付利されており、ゼロコストではありませんが、単純化するためにゼロとします。
2%のインフレ目標が達成された後には、法定準備を超えた日銀当座預金に2%の付利を行うこととします。もし、日銀当座預金がゼロ金利のままであれば、短期金融市場金利との裁定が働き、短期金利誘導目標2%を維持することはできないためです。*3

このように議論の前提を置いたうえで、デフレ脱出・経済活性化を目的とした100兆円分の支出を増やすことにします。

そのために3つの手段を挙げます。

①政府が永久国債100兆円を発行して、民間銀行が引き受ける。これは現在でも行われているので、ヘリコプター・マネーとは言えないと思われます。
この場合、100兆円の支出を行うのは政府です。

②政府が永久国債100兆円を発行して、日本銀行が直接、引き受ける。広義のヘリコプター・マネーです。支出を行うのはやはり政府ですね。

日本銀行券を国民に直接、100兆円をばら撒く。これが純粋なヘリコプター・マネーです。
支出を行うのは政府ではなく、個々の国民です。

翁教授は、いずれの手段を使っても、公共事業や個々の国民の資産購入・消費(飲食でもアプリゲーム課金でもなんでもよい)に充てられた100兆円は、最終的には民間銀行に預け入れられ、日銀当座預金に還流することになるとしています。

先ほど述べましたとおり、最初は統合政府(政府+中央銀行)の利払い負担はゼロですが、2%の目標達成後は100兆円×2%=2兆円の負担が生じることになります。

この2兆円を受け取るのは、民間銀行ですね。

国民や企業は最初、日本銀行券を現金のまま保有することも考えられますが、金利が上昇すれば、金利収入を求めていずれ民間銀行に預け入れることになります。

ヘリコプター・マネーを実施しただけでは統合政府の利払いはゼロにはならないため、一部で主張されるような「魔法の杖」ではないことがわかります。
バーナンキ前議長は、この2兆円利払いというデメリットを打ち消すために、同時に民間銀行へ課税を行うことも提言しているそうです。
銀行課税は、具体的には日銀当座預金への2%付利を行わない=法定準備率を引き上げて付利される日銀当座預金の残高水準を狭くするとの手段で行われることでしょう。
銀行課税は、最初、銀行(=銀行の株主)へ帰着しますが、いずれは課税を第三者へ転嫁しようとして、銀行をめぐる利害関係者、すなわち国民全体へ負担が分散されていくことになります。これは、国民全体が課税されると似た状態になるわけです。
そうなると、ヘリコプター・マネーのメリットとして挙げられていた、将来の増税予想による消費抑制=非ケインズ効果を起こさずに財政支出を拡大できるという説明も成り立たないですね。

本稿では、「ヘリコプターからお金をばらまけば、政府の利払い負担をゼロにできるのか」という論点を中心にしており、財政規律喪失の問題や、100兆円の財政支出による経済活性化が税収増加をもたらして、ヘリコプター・マネーのデメリットを打ち消すなどの論点には触れておりません。

それらにつきましては、私自身も勉強を続け、考えていきたいと思います。

ヘリコプター・マネーとは直接、関係ありませんが、バーナンキ前議長の回顧録はこちらです。



*1:言うまでもなく、記事の読み誤り・経済学や金融実務等の知識不足による誤りは私個人に帰属します。また、詳しくはリンク先の雑誌に掲載されている翁教授の論考をお読みください。

*2:数字は仮のもので、2%という数字自体に意味はありません

*3:この付利の問題は後ほど、銀行への課税として取り上げます

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