通貨発行の簿記会計的なお話。
皆さんが持っている1万円札。製造原価はおよそ20円です。
なので、日本銀行は1万円札を刷るたびに、1万円と20円の差額、9980円を「通貨発行益」として得られる・・というお話を聞いたことがあるのではないかと思います。
仕訳を考えてみました。
日本銀行の1万円札発行仕訳
(借方)日本銀行券 10,000 (貸方)銀行券製造費 20
(貸方)通貨発行益 9,980
この仕訳では、日本銀行券は借方に来ています。資産の増加、という意味ですね。
日本銀行以外の個人や企業にとって、お金は資産=財産そのものです。何も間違っていないのでは・・と思われるかもしれません。
しかし、こちらに掲示されている日本銀行のバランスシートをみますと、日本銀行券は日銀の資産ではなく「負債」です。約100兆円、負債の部に計上されていますね*1。
平成29年3月期 日本銀行決算(PDF)
http://www.boj.or.jp/about/account/data/zai1705a.pdf
この仕訳は誤りです。
こちらを読んでいたところ、この記述にも当たりました。
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銀行券の額面と製造費の差額が通貨発行益になるという俗説は誤りです。例えば、日本銀行は1万円札を20円で仕入れて1万円で発行しているため、9980円を儲けているという説明は完全に誤りです
では、どういう仕訳になるのか。考えてみました。
貨幣発行を簿記会計的にお話いたしますと次のようになります。
仕訳は、すべて日本銀行の帳簿上で行われているものです*2。
①日本銀行は、銀行券製造費を計上して国立印刷局へ1万円札を発注する。
(借方)銀行券製造費 20(貸方)現金 20
銀行券製造費は、年間で518億円計上されています。
この時点では、日本銀行券はオフバランスであると推測されます。
②民間銀行は、預金者からの支払い要求に備えて、日本銀行に預けてある当座預金から、日本銀行券100億円を引き出す。
(借方)当座預金 100億(貸方)発行銀行券 100億円
この時点で、オフバランスであった1万円札が日本銀行のバランスシートの負債に計上されます。
当座預金も、日本銀行の負債に計上されています。
鏡として、民間銀行の資産にもなっています。
日本銀行から、お金(=日本銀行券)を引き出しできるのは、日本銀行に当座預金を保有している民間銀行のみですね。
なので、国立印刷局から受け取りした1万円札は、民間銀行から日本銀行への払い出し請求が唯一の流通ルートなるわけです*3。
これが通貨発行の仕訳です。
では、通貨発行益とは・・こちらにあっさりと書かれています。
日本銀行の利益はどのように発生しますか? 通貨発行益とは何ですか? : 日本銀行 Bank of Japan
日本銀行の利益の大部分は、銀行券(日本銀行にとっては無利子の負債)の発行と引き換えに保有する有利子の資産(国債、貸出金等)から発生する利息収入で、こうした利益は、通貨発行益と呼ばれます。
ちょっと繋がりません。
こちらを繋げますと、②の仕訳で民間銀行から預かっている当座預金が借方に来ました。
次に、この仕訳が起きます。
③日本銀行は、民間銀行が保有する国債100億を買いオペにより買い入れ、代金を民間銀行の当座預金へ振り込んだ。
はい、②と③の仕訳を繋げると、当座預金は同額100億円が借方貸方で増減が消えてしまいます。
結果、この仕訳が残ります。
(借方)国債 100億 (貸方)発行銀行券 100億
これで、「お金を刷ることで、利息を生む資産=財産である国債を入手」できたことになります。
1万円札は、持っている人に利息を払う必要はありません。
ゼロ(20円の原価)で、毎年、利息を生む国債を入手できたわけです。
通貨発行益とは、国債などの資産から得られる収入から、1万円札の製造費用も含めた経費、日本銀行職員に支払われる給与、民間銀行へ支払う当座預金の一部に付される利息などの費用を差し引いて残ったものになるもの、ということになります*4。
以上、簿記会計がわかると、もっともらしい話が実は誤りで、こんなふうに日本銀行の中で切られている仕訳も推測できるようになりますというお話でした。