善意による包摂よりも、お金で割り切れる関係を。
本日のお題はこちら。
- 作者: 坂本光司
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2017/12/22
- メディア: Kindle版
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「世界でいちばん大切にしたい会社」シリーズで著名な坂本光司教授による「人を大切にする」経営学の講義です。
おそらく、中小企業経営者に向けたセミナー、講演や講義録を再構成したものではないでしょうか。
テーマ別に章立てされていますが、ところどころ重複した記述がありますので。
結論から申しますと、坂本教授のご意見には賛成できません。
本書では、「人財を育てる」「大家族的経営」「全員参加経営」「全社員が共感できる企業理念」など、有り難い、いえ、嫌味ではなく、文字通り存在が難しいようなお話が続きました。
先ほど挙げた「人を大切する経営」ですが、具体性は何もありません。
ここからは推測ですが、坂本教授の理念を有り難がって取り入れようとするのは、多くは、ある程度経営に余裕がある中小企業経営者ではないかと。
何か、自分も「良い経営をしたい」。
そこで、著名な坂本教授の講演を聴きに行く。
坂本教授はこういう提唱をします。
経営者の掲げる理念に没入して労働者が、全人格的に生きがいとして仕事に打ち込む。
先頭に立つのは、講演を聴いてうなずく経営者自身です。
そういう仕事のあり方もあるでしょうし、個人としてそういう選択を自主的に行うことを止めはしません。
でも、そういうことに興味すらなく、ただ仕事をして、生活の糧である給与を得られればそれでよいという考えの労働者はどうしたらいいのでしょう。
人間なら、誰でも仕事のやりがいを求めているはずだ、という大前提があるようです。
坂本教授のそのような人間観は、最後の部分に出てきますので。
しかし、それを最初から望まない人にとって、企業という場に「包摂」されてしまうことは地獄ではないでしょうか。
しかも、経営者は「人を大切にする」として善意なのです。
これは、悪意をもって囲い込まれるよりも、表立っては反論・逃亡しづらいかもしれません。
企業は、人が集まって仕事をするために作り上げたものに過ぎず、全人格を没入するかどうかは、選択できる方が望ましい。
私は、そう思います。
企業経営者は、ちゃんと人として尊厳をもって生きるに足る給与を労働者へ払う。
お金で割り切れる関係。
働く場所である企業と労働者個人の関係。
私としてはそれでじゅうぶんだと思います。