「教科書が読めない人々」の運命について。
本日のお題はこちら。
- 作者: 新井紀子
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2018/02/02
- メディア: Kindle版
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「ロボットは東大に入れるか」と名づけた人工知能プロジェクトを主催している数学者・新井紀子先生による一冊です。
プロジェクトが開発した人工知能「東ロボくん」はどんどん進歩していきますが、現在のところ東京大学に入れるだけの「学力」(知能?)を備えてはいません。
でも、MARCHと呼ばれる有力私大には入れるくらいにはなっている、と。
このまま進歩していけば、いつかは東大に入れるくらいのレベルにはなれるでしょうか?
新井先生は「ならない」との結論を出しています。
結論的なことだけを言いますと、次のようになります。
「人工知能AIは、英単語を暗記したり年表を記憶したりするのは得意だが、教科書の文章を読み取って意味や文脈を理解することは苦手・・というか原理的に不可能*1」
人工知能の特徴=得意とする手法は、暗記学習ばかりしている中高生が得意なことに似ていると続きます。
ちゃんと教科書を読んで理解しなくとも、パターン暗記やキーワードの反射的なアウトプットである程度の成績は達成できてしまう、ということですね。
さて、東ロボくんとはまた別の話に代わります。
新井先生らは、大学生の文章読解力の惨憺たる状況に驚きます。
その原因を探るため、中高生を対象として、基礎的な文章読解力を調べるため大規模なリーディングスキルテストというものを実施します。2万5千人以上がテストを受けたとのこと。
www.nippon.com
詳しくはリンク先をお読みいただきたいのですが、中高生の3割以上が教科書の文章の意味を理解できていないという衝撃の結果がでます。
教科書に書いてある文章が読んで理解することができなければ、先に挙げたような人工知能が得意とする反射的な「学力」は付けられるものの、それ以上にはいかない、ということです。
このまま人工知能が進歩していけば、いずれ、そういう「教科書が読めない」人々は失業せざるを得ない・・という危機感を表明しております。
人工知能である種類の仕事が失われても、「人間しかできない」仕事が新たに生まれるという楽観的な見通しもよく聞かれますが、人工知能が既存の仕事を奪っていくスピードは、過去の産業革命のときとは比べようもなく早い、と。
ここからは私の感想になります。
職業に必要なものは学力だけではありませんので、人工知能に代替されるようなホワイトカラー事務職がしている単純・反復的な仕事は消えるものの、そんなに悲観的にならなくても・・とも思います。
ただ、人間しかできない仕事というものは多くは飲食店などのサービス、介護や保育など低賃金のものばかりです。
または、高度な才能や技能、長い訓練を必要とする専門業の一部だけであり、これは普通の人には現在でも無理でしょう。
そうなると、一部の「人間しかできない」仕事をする人々が社会が生み出す富を独占し、大多数の「人間しかできない」仕事をする普通の人々は最低賃金レベルの生活を強いられる・・その分かれ目は「教科書が読めない」だけではないにしても、多くはそこで区切られてしまうことに。
そういう暗い未来がやってこないようにするために、新井先生は本書中でいろいろ提言しております。
この続きは、ぜひ本書をお読みいただければと思います。