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RIZAPの事業の成長は何によってもたらされるのか?

RIZAPの第1四半期決算(2018年6月期)が32億円あまりの赤字ということで話題になっておりました。
そこで、経営状況はどんなものだろう・・とIRページにいって、昨年度からの有価証券報告書や短信などを読み込んできました。

www.rizapgroup.com

まず、昨年度までの推移です。

RIZAP、他企業のM&A(企業買収等)を繰り返して、総資産や売上規模はどんどん大きくなっております。
2018年3月期の損益を確認すると・・売上収益1,362億円、営業利益135億円、当期純利益92億円(連結、IFRSベース)となっており、連続で増収増益と表面的には好業績であるように思われます。

次に、連結キャッシュ・フロー計算書をみます。
着目するのは、本業でどれだけキャッシュを稼ぎ出しているか=営業キャッシュ・フロー(営業CF)の状況です。
2018年3月期、営業CFは+87百万円。間違いではありません。0.87億円です。
通常、営業利益(本業でどれだけ「利益」を稼いでいるか。未収未払いを加減した発生主義ベース)と
営業CF(本業でどれだけ「現金」を稼いでいるか)は、それなりに近い数字が出てくるはずであり、135億円の営業利益に対して、100分の1以下の0.87億円の営業CFというのは、何か特別な理由があるものと考えられます。

その原因は、RIZAPの有価証券報告書の企業結合(M&A、企業買収等)に関する注記を読み込むことにより把握できます。

企業買収等とは、いろいろな説明な仕方がありますが、株式を取得するという手段で買収先の資産(棚卸資産売掛金など)と負債(買掛金や借入金など)を買い受けて引き受けることです。
買収先の企業の会計上の価値は、その資産と負債の差額(=純資産)になります。
買収先の純資産が100億円なのに、買収対価が60億円であれば、割安に購入できたことになります。
これは、企業会計上、「負ののれん」として取得した年度に「利益」として計上されるルールになっております。

2018年3月期の有価証券報告書から、RIZAPの営業利益135億円には、負ののれん発生益(割安購入益)83億円が含まれていることが読み取れます。

主な買収先と割安購入益は次のとおりです。
ワンダーコーポレーション 40億円
サンケイリビング 20億円
堀田丸正 15億円 などなどです。

これは、会計処理ルール上の「利益」であり、外部からの現金流入を伴うものではありません。

日本の会計基準では、負ののれんは「特別利益」で処理されます。これなら金額も一目瞭然であり、営業利益と営業CFの大きな乖離という事象は生じません。

RIZAPが採用しているIFRSでは、負ののれん発生益は営業利益に含まれます。そのため、営業利益中の「その他の収益」に含まれて見えづらくなり、有価証券報告書の企業結合の注記まで読み込まないとその内容が把握できなくなってしまいます*1

IFRS採用によるM&Aへの影響というと、のれんが非償却(減損テストのみ)になって営業利益が日本基準に比べるとかさ上げされるというのが着目されますが、このような負ののれんの一時的な利益が営業利益に含まれるというのもIFRSと日本基準との違いとして指摘されることになります。


さて、2018年6月期(第1四半期)決算の赤字の原因ですが、RIZAP側の短信の説明では、新規出店、広告宣伝の強化、RIZAPゴルフの新規事業開始などの先行投資に多額の費用を投入したためであり、赤字(営業利益の減少)は計画通りのものであるとされています。
第2四半期以降では、大幅な成長を見込んでいるとも述べられております。
なお、短信の説明文には出てきませんが、後半の企業結合の注記をみると、第1四半期では負ののれんが発生がなく、昨年度以前のような営業利益の増加はないこともわかります。


第2四半期以降の「大幅な成長」とは、経営改革によって本業でキャッシュを稼ぎ出すことで達成されるのか。それともまた企業買収等の「負ののれん発生益」(割安購入益)を計上することで達成されるのか。

一般に、事業会社の本業とは、顧客へより良い財・サービスを提供し、その対価としてより多くの現金を稼いできてリスクをとって株式へ出資している投資家へ配当や株式値上がり益で報いることだと考えられます。
それだけではなく、RIZAPは、投資会社のように割安の企業を購入してきて、経営を再生していくことも目指しているとも聞きます。
RIZAPの今後に注目したいと思います。

日本基準とIFRSの違いはこちらもどうぞ。

新・現代会計入門 第3版

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*1:RIZAPの営業利益と営業CFの乖離、2017年3月期も大きく102億の営業利益に対し営業CFは1億75百万円しかありません。2017年3月期は58億円の負ののれん発生益=割安購入益が含まれております。話題になりましたジーンズメイトが17億円などですね。また、買収先企業の棚卸資産などを取り込むことで必要となる正味運転資本が増えている(営業CFがマイナスに働く)のも乖離の原因です。

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