すらすら日記。

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マイナス金利をどうやって外部の投資者に開示するかというお話。

企業会計原則では、収益と費用は総額で表示するのが原則であり、これをネッティング(相殺)することはできません。

例えば、収益が100、費用が80あれば、相殺して100-80=収益20とするのではなく、総額で収益100、費用80、純利益20とするのが基本です。

そして、収益もその源泉ごとに、区分して表示しなければなりません。

銀行業では、資金運用収益という大区分の下に、預け金利息、コールローン利息、貸出金利息、有価証券利息配当金というように、区分して掲記することすることになります。

これは、財務報告を読む外部の投資者が、どんな源泉から収益が発生しているのか読みとることを可能にして、その経済的意思決定(株式を買うべきか、保有し続けるべきか、売却すべきかなど)に資するためです。

さて、日本銀行マイナス金利導入により、預け金利息のうち一定額以上の日銀預け金利息は実際にマイナスになります。*1

また、翌日物のコールローン利息もマイナスになっていると報じられています。

国債も10年未満までは、ほぼマイナスの利回りとなりました。*2

企業会計の基準や財務報告の様式を定めた規則*3は、資産を運用して、マイナスの運用収益が発生するようには作られていません。

現行の会計基準では、マイナスで発生した運用収益をどのように表示するかというルールは定められていません。

実際には、企業会計原則には外れますが、運用収益と相殺されてネット表示されることになっていると思われます。

この方式では、個々の銀行がどのくらいのマイナス金利の影響を受けているのかは読みとれません。

それでも、今年度はあと2カ月弱で決算を迎えるため、マイナス金利のそれほど重大なものとはならず、投資家の意思決定への影響は限定的になると考えられます。*4

しかし、来年度以降もマイナス金利が継続し、さらにマイナス0.1%の日銀当座預金の付利基準が引下げとなり、仮にマイナス1%ともなれば、銀行業への影響はすさまじいものになるかと。

その際、外部の投資家は、そのマイナス金利の影響を知るため、どの程度マイナスの運用益(?)を得ているのか、総額での表示を求めてくるでしょう。

その先にはどんな世界が待ち受けているのか。

そして、投資家はどう財務報告を読み解いていけばよいのか。

動向を注視したいと思います。


追記:20:44
資産運用により確実にプラスの利益(収益と費用の差額)があげられるかのように誤解される表現がありましたので、修正しました。
ご指摘を感謝します。


~参考~
銀行の財務報告は非常に特殊であり、これの読み解き方を解説した本はなかなかありません。

会計監査人と銀行経理実務家向けの本ですが、いくつか。

あずさ監査法人による解説書です。

銀行経理の実務

銀行経理の実務

銀行経理の実務は鉄板ですが、これは実務家やアナリスト向けですのでなかなか難しいかと。

一般向けに、全国銀行業界による勘定科目の解説はこちら。
www.zenginkyo.or.jp



*1:マイナス金利は2016年2月16日開始。

*2:これは新規に市場から取得した国債の利回りがマイナスということであり、既存保有の国債の利払いが引き下げられるわけではありません。

*3:銀行業では、銀行法施行規則別紙様式で貸借対象表や損益計算書の様式・科目は法定されています。

*4:企業会計では重要性の原則が広く認められており、私見ですが、この相殺表示は許容範囲と考えます。

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