すらすら日記。

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地銀を考えるためのブックガイド。

最近、地方の人口急減による衰退の様子がいよいよ現実のものとなったことと、マイナス金利下で資金運用が極めて困難になっていることも合わせ、地域に密着して経営を行っている地方銀行について関心が集まっています。

ウェブで見かける記事の中には・・
もっぱら合併・再編の組合せなどのセンセーショナルなものや、

いったいいつの時代の話題の蒸し返しかという貸し渋り

あるいは運用難から、不動産融資への傾斜のリスクを強調するものなど、あまり的確な切り口ではないな、と思われるものも散見されます。

そこで、いくつかブックガイドを。

まずは、ベストセラーになっている「捨てられる銀行」。

捨てられる銀行 (講談社現代新書)

捨てられる銀行 (講談社現代新書)

各地銀が数十冊単位でまとめ買いしているとも聞きます。
詳しくは私もレビューを書きましたのでこちらを。
sura-taro.hatenablog.com


横浜銀行頭取の伊東氏の手になるシリーズで3冊でております。

地銀の選択― 一目置かれる銀行に

地銀の選択― 一目置かれる銀行に

地銀連携―その多様性の魅力
地銀の未来―明日への責任

これらの本については、「当たり前のことを書いているだけだ」との批判も聞こえておりますが、この当たり前のことが当たり前にできていないのも地域金融機関が苦しくなっている原因なのかもしれません。
また、横浜銀行のようにある程度の規模を確保しており、都市部に位置している地銀ならば当てはまる記述は多いかと思いますが、本当に産業が無く、人口が急減している地方に所在する規模の小さな地銀には該当しないとも思われます。

新しいものでは、今年6月に名古屋大学で金融論を教えている家森教授との共著もでておりますが、未読です。

地銀創生―コントリビューション・バンキング

地銀創生―コントリビューション・バンキング

こちらについては後ほど。

2年程前に出ました、署名もズバリ「ザ・地銀」です。

地銀は「構造不況業種だ」という現実を突きつけるところから始まり、統合・再編も含めた長期的なビジョンで経営に当たれば・・という展開となります。
法人融資、個人営業のやり方の提案から、人材育成のあり方にもふれています。
本書を読んだ感想としては、これらの提案をこなせる地銀は、ある程度の規模(預金量・融資量と人材の厚み)が確保できているところに限られるのではないか、これは無理だ、とも感じたことを思い出しております。

週刊金融財政事情に連載されていたものに大幅に加筆修正して単行本にしたものがこちら。

やはり、人口急減という環境下で合併を選択するか、独自モデルを作るかの選択を示したうえで、「不都合な現実」を突きつけております。
伊東氏の本にも出てきますが、こちらでも地銀と地方自治体との関係にも言及しております。

続いては、地銀だけではありませんが、銀行経営の課題をまとめた「金融機関マネジメント」を。

こちらは、金融機関の事業が伝統的な融資だけではなく、非金利業務を加えてどのように成り立っているのかから始まり、それらを管理するための新しい流れを解説しております。
それらの課題に対し、現行の金融機関の組織や人事体制が対応できていないことの指摘も。
もともとは、大学院での金融機関から派遣されてきた社会人向け学生に向けて行われた講義が元になっているようです。さぞかし、耳が痛い指摘が多かったのではないかと。

オマケとしまして、影響を受けるのは地銀に限りませんが、野村総合研究所がまとめた日本人の金融行動に関する書籍が興味深いので参考に。

なぜ、日本人の金融行動がこれから大きく変わるのか?

なぜ、日本人の金融行動がこれから大きく変わるのか?

地銀に影響するところでは、地方に居住する高齢者が死去して保有する多額の預金が、相続人である子息が居住する都市部へ流出するということが指摘されており、その金額は年間数兆円にもなるのではないかという推計も行われております。
実際には地方銀行では預金は増加が続いておりますが、この流出効果が効き始めるのは、そう遠くはないのかもしれません。

最後に、気になる点として、主に高齢者向けに行われている投資商品(投資信託や年金保険)の売り込みの問題についてまとめて書かれた本は見当たりません。

投資商品の販売は、資金運用難下で手っ取り早く手数料を稼げる手段として盛んに行われています。
しかし、個人の資産運用商品としては大きな疑問符のつく高コストかつ複雑なものであり、地域貢献の看板とは大きく矛盾するのではないかと言わざるを得ません。

こちらについても持続可能性に疑義があると感じております。


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