定量分析に基づく地域金融機関の将来について。
本日のお題はこちら。
地域金融のあしたの探り方―人口減少下での地方創生と地域金融システムのリ・デザインに向けて
- 作者: 大庫直樹
- 出版社/メーカー: 金融財政事情研究会
- 発売日: 2016/03/07
- メディア: Kindle版
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銀行業界は、法令にもとづく、金融庁の厳しい監督下にあります。
そのため、銀行員の発想として、「将来、起こること」「これから何をなすべきか」ということについては、法令や規則・ガイドライン・金融検査マニュアルなど、定性的な文章に何が書いてあるかを読み取りしたり、金融検査官の顔色を窺ってその意図を忖度したりすること根拠にして行うことを得意としている傾向があります。
「銀行マンは数字に強い」などとも言いますが、実際には、数字による定量分析的なことは得手とはしておりません*1。
そのため、地域金融機関の将来予測も、「規制の影響」や「地域金融のあるべき論」など、定性的な分析によっているものが多かったかと思われます。
本書は、従来からある定性分析ではなく、定量分析、具体的には銀行の公表財務データや人口動態、納税情報など統計データを分析してモデルをつくり、将来の人口減少下で預金・貸出金がどのように推移していくかを予測しております。
その結果は、かなり衝撃的です。
某弊社が本店を置く県では、貸出金は2025年までに20%減少、2045年までには40%減少していくという予測結果となっていました*2。
2025年。そんな遠い将来ではなく、あと8年しかありません。
さらに、貸出金約定金利も趨勢的に低下していくことも、データを基に推計しております。
こんなにボリューム減少、金利低下では、経営統合なしで単独で地方銀行が生き残っていくのは現実的ではないことを述べています。
「地域に貢献することで、わが行の価値が顧客に支持され、収益を確保できている。経営統合は不要だ」
地銀経営者のこういう発言は、記者会見の度に耳にします。
しかし、これは単なる願望であって定量分析からは、単独での地銀存続には厳しい予測が示されています。
この他、銀行経営者が合併にインセンティブを持たない理由や、
近年のガバナンス改革で導入された本当に社外取締役が一般株主の利害を代表しているなら、莫大な経費削減効果が見込める合併を勧めないのはなぜなのかなど、
銀行内部や、金融庁サイドからは期待しえない分析もいろいろ述べられております。
地銀だけではなく、信用金庫の将来像の分析や、和歌山県や北海道での事例分析も取り上げられております。
マイナス金利政策導入前に書かれた本ですが、基礎的な前提条件は変わっていない(むしろ、地域金融機関に不利になっている)ので、今日以降を読むためにいろいろとヒントを得られる1冊ではないかと思われます。
この問題に関心のある方にご一読をおすすめします。