合理的に正しい選択をして理想の金融業へ変化できる?
本日のお題はこちら。
- 作者: 森本紀行
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2017/08/08
- メディア: Kindle版
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フィンテックの進展で、既存の銀行業務はどんどん自動化・システム化され、多くの銀行員の仕事が失われる・・というお話はよく聞こえてきます。
いえ、銀行に限らず、あらゆる職業のあり方が変わっていくというのは、短期的なのか、長期的なのかという時間のズレがあるとはいえ、間違いのない事実なのでしょう。
なので、著者が主張する銀行員の仕事がなくなるという意見に対して、いろいろツッコミどころはありますが、ここでは反論はしないでおきます。
ここでは、そのことではなく、投資信託や年金保険など、銀行で販売されている金融商品の売り方について、書いてみようと思います。
森長官率いる金融庁は、従来、売れ筋商品であった毎月分配型を中心とする投資信託(信託報酬などが高めで高コスト、分配の度に課税されるため税負担も重い)を顧客本位ではないとして排撃しております。
これに対して銀行側からは、次のような反論がよくなされています。
「森長官が推薦するような、長期的に収益が得られるようなインデックス株式投資信託などは顧客には求められていない。毎月分配型の投資信託は、顧客のニーズに合っており、実際に顧客満足度も高いというのが何よりの証拠である」
これに対して、本書の著者は、森長官の改革を支持しこう述べています。
顧客本位と顧客満足は異なる……顧客側の視点においては、自分自身の心の中にあるニーズが感覚的に満足されれば、仮にそれが非合理な選択の行動となっても問題視できず、結果として自ら自己の利益に反してしまう……顧客の立場に立つことと、顧客を満足させることには、重なる部分がないわけではないものの、明確が違いが存在する。
顧客本位で行動すべき銀行が、顧客が満足しているからといって、高コストの非合理な毎月分配型投資信託を売ってはいけない、ということなのでしょう。
世の中には効果が怪しい(ほとんど効果がない、非科学的な)サプリメントや水素水など、「非合理な商品」が溢れています。
生活必需品以外の消費は、多かれ少なかれ非合理な面がありますし、それを購入することで、人々は満足を得ていることも確かでしょう。
しかし、大切なお金を預かり、公共性も求められる銀行が、そのような「非合理で」顧客のためにならないものを売ってはいけない。
・・理屈としては、わかります。
ただ、森長官の進めようとしている「合理的な」改革は、人間の非合理さの前に挫折するような気がしてなりません。
人間は、合理性だけを追求して生きていません。
理想社会を作るために合理的に正しいこと邁進している人などめったにおらず、多くは刹那的な享楽を求め、ダラダラと生きているのです。
ましてや、それぞれの顧客や銀行が、合理的に正しい選択をすれば、総計としての社会が良くなるのでしょうか。
少なくとも、私自身は合理的に、正しくは生きていません。
森長官の理想は、はたして実現するでしょうか。