経済合理的に動く麻薬カルテルと対決するためには・・
本日のお題はこちら。
- 作者: トム・ウェインライト
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2018/02/05
- メディア: Kindle版
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失敗には死で報いる残忍なボスが君臨する麻薬カルテル。
映画などで流布するイメージです。
しかし、逮捕されたカルテルの元構成員へのインタビュー調査によれば、「裏切り」は死で報いられますが、「失敗」は意外にも赦されるとのこと。
これは、違法行為で常に警察・軍に追われ、敵対組織との激しい抗争からも取引は不確実で、新しい構成員のリクルートも困難であることから、失敗する度に「処刑」していたのでは組織が成り立たない、との推測です。
また、中南米~メキシコなどの一部の政府の統治が及ばず、麻薬カルテルが事実上支配している地域では、麻薬カルテルはただ暴力と恐怖で市民を威圧しているのではなく、無秩序な収奪をせずに規律を持って「税」(みかじめ料)を徴収して治安を維持し、老年者には「年金支給」すらしている、と。
組織のイメージアップのためにマスコミを抱き込んで自分たちの「ブランド」を作り上げ、敵対組織を悪しざまにいう宣伝をしている。
そのため、麻薬王は市民からヒーローのように崇拝を集めている。
また、必要とあれば対立する麻薬カルテルと休戦したり、地域分割の不可侵協定を結んだりもする。
麻薬カルテルは意外に「経済合理的」であり、その行動は多国籍企業の活動に似ている、と。
これに対し、メキシコの「麻薬戦争」宣言のような武力弾圧・強硬策ばかりの警察・軍当局の姿勢は、莫大な費用をかけている割に効果があがらず、むしろ市民が巻き込まれて被害を受けたり、カルテル同士の抗争を激化させ死者を増やしてしまっているとも。
本書後半ではネットの発達による闇サイトでの麻薬や脱法ドラッグ販売の様子も書かれています。
「評価」や口コミでの闇売人のランク付けなど、一般のインターネットショッピングと変わりません。
ちらりとしか述べられていませんが、「安全な」麻薬を合法化してしまえば、麻薬カルテルの存在意義はなくなってしまう。
経済合理性を考えるならば、殺人、誘拐、恐喝などの原因となっているのは麻薬が「非合法」であるため。
「誤用」して死に至るような脱法ドラッグが売られているのも同様です。
本書は、麻薬合法化の是非そのものについては詳しくは述べられていません。
経済合理的に行動している麻薬カルテルや闇サイトと対決するためには、武力行使や強硬策だけでいいのか。
麻薬のみならず、「社会的に望ましくないが、人間の欲望がある以上、根絶は難しい」とされるさまざまな事象への対処方法を考えるために面白い書であると思います。