ホロコーストをめぐるいくつかの誤解について。
本日はこちらを再読いたしました。
高校の世界史にもナチス・ドイツによるユダヤ人迫害・虐殺の記述は必ず出てきますし、いろいろな映画にも取り上げられ、アウシュビッツ収容所のガス殺害施設などもよく知られていると思います。
教科書に書かれたイメージでは、ヒトラーと狂信的なナチが、主にドイツに住むユダヤ人を迫害し、とうとう殺害のためにガス室へ送り込んだという漠然としたものとして捉えられているのではないでしょうか。
ちょっと詳しい方でも、主にポーランドに住んでいたユダヤ人に被害が多かったというイメージも追加して保有しているかもしれません。
本書では、ホロコーストをめぐるいくつかの誤解を解いてくれます。
①ヒトラーは理解不能な狂人ではなく、それなりの戦略家であり、彼の思考と現代の我々の思想はまったく無縁というわけではない
②ホロコーストはドイツ国内やポーランドに所在したアウシュビッツだけ起きたのではなく、ポーランド・ウクライナ・ベラルーシ・バルト三国などで大量殺害が起きている
④ホロコーストはアウシュビッツなど強制収容所でガス殺されただけではなく、約半数の犠牲者はウクライナなどで射殺されている
⑤殺害を行ったのは親衛隊や行動部隊など確信的ナチだけではなく、ナチ党員でも無く反ユダヤ思想すら持たない秩序警察官や国防軍兵士も殺害実行者の多くを占めた
また加害者の約半数はドイツ人ですらなく、ウクライナ、リトアニア、ルーマニアなどの兵士や補助警察官あるいはただの民間人が虐殺に協力した
⑥ホロコースト実行はナチ国家の犯罪ではあったが、虐殺は国家組織、官僚機構が破壊された場所でこそ起きた
国家が崩壊したエストニアでは99%のユダヤ人が殺され、ドイツ占領軍はいたものの国王政府が残っていたデンマークでは、99%のユダヤ人が生き延びた
非常に長大でキツい記述が続く歴史研究書ですが、ステレオタイプ的なホロコーストのイメージを崩して史実を明らかにしてくれる著作であります。