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粉飾決算の典型的手法と監査の限界について。

東芝粉飾決算などをとりあげた「会計士は見た!」の著者、前川公認会計士の新しい本が出ておりましたので、「なぜ、監査で粉飾を見つけるのが難しいのか?」ということを少々。

事件は帳簿で起きている

事件は帳簿で起きている

利益を実際より良く見せようとする場合、収益を多く計上するか、費用を少なく計上するしかありません。

たいていの場合、不正の方法は売上の過大計上か、前倒しです。

現代の企業会計は、複式簿記という技術で処理されます。

「複式」簿記ですので、帳簿に記入する際は、二つの勘定科目を動かさなければなりません。

売上を実際より多く計上する場合、必ずもう一つ相手勘定が必要になります。

多くの場合、売掛金の架空計上か、棚卸資産の架空計上ですね。


会計監査がありますので、売掛金棚卸資産もその「実在性」の監査を受けます。

しかし、膨大な計数の売掛金棚卸資産について、監査にあたる公認会計士が実在性を全件照合することは現実には不可能であり、金額の大きい順であったり、ソフトを使用したランダム抽出をしたりした指査により監査が行われています。

その際、売掛金の相手側(取引先)に対して、実在性を郵便で確認する手続きも行われます。この「残高確認手続は第三者による証明ということで非常に証拠力が強いものですが、これすら取引先が粉飾決算に協力して嘘の回答をよこす場合もあり*1、100%実在性を確認することはできません。

また、残高確認手続を行わず、会社内で保存されている書類だけで監査する場合は、会社ぐるみで隠蔽工作を行って架空契約書・架空請求書・架空納品書などを用意されれば、見抜くことはまず不可能ですね。

棚卸資産についても、倉庫で在庫をすべて数えることも不可能で、これもサンプル抽出になりますので同様の問題があります。


一方、預金口座の残高を偽ることは非常に困難です。

預金口座については、売掛金ほど件数がありませんので、先ほどの残高確認手続は全先に行われます。

しばしば粉飾に協力する売掛の取引先とは異なり、銀行は金融機関として自らの被監査企業の債権者であることが多く、粉飾に協力する動機はありませんので、嘘の回答を返してよこすことはありません。*2


売掛金棚卸資産をごまかしても、預金残高を偽ることは難しい。

そうなると、粉飾を行っている企業の損益計算書の利益は黒字になっているように見えても、キャッシュ・フロー計算書の「営業活動によるキャッシュ・フロー」はマイナスになっていることが多くなります。

稼いで利益を上げているはずなのに、本業では現金を稼げていない。

これは、辻褄が合わないわけです。*3

また、損益計算書とキャッシュ・フロー計算書の間の矛盾だけでは無く、売掛債権回転率や棚卸資産回転率など、財務指標の理屈も合わなくなります。

例えば、架空の売掛金はいつまでたっても回収されませんから、売掛債権回転率がどんどん悪化して行ったりするわけですね。


上記は架空売上計上という単純な粉飾の手口ですが、それでも会社側が本気で隠蔽しようとすれば、限られた時間と人員で監査を行っている公認会計士が見抜くことはなかなか難しいです。

公認会計士には、税務調査や犯罪捜査のような強制力もありませんので。

さらに、東芝オリンパスのような巨大企業になれば、海外にトンネル会社を作ったり、金融技術を行使して実態を見えにくくするなど複雑な粉飾テクニックが用いられることもありました。


ただ、そのような「努力」を傾けて粉飾を行うと、会社の本当の財務状態が経営者自身にもよくわからなくなり、本当に会社を立て直すための効果的な対策を行うことが難しくなります。
また、粉飾行為に社内資源を投入するため、前向きな仕事をする時間が減ってしまう。

何も、いいことはありません。


また、本書では、「会社のためだった」という粉飾発覚の際に必ず聞かされる言い訳は「業績悪化による解任を恐れる経営者の保身」に過ぎない。
そう繰り返し述べられております。

実際の社名、実際の事件をあげて解説されております。

会計の専門知識がなくても読みとおせる本であると思いますので、ぜひ。



こちらもどうぞ。
sura-taro.hatenablog.com

*1:互いに粉飾に協力し合う、架空循環取引というものもおしばしば起きています。

*2:例外的に、海外の銀行が協力して嘘の回答を出したケースもありました。

*3:金融業では当てはまらないケースもあります。例外です。

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