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年末年始に読みたいおすすめ本5冊。(会計・税務編)

さて、会計・税務編です。

帳簿の世界史 (文春e-book)

帳簿の世界史 (文春e-book)

「正確な記帳は権力の源泉である」

遠い律令時代の遺跡から出土した、租の徴収を記録した木簡の展示を見て、とある会計クラスタの方が漏らした述懐です。

自分の領地領国がどのような状態にあり、どのくらいの兵士を動員できる(雇い入れられる)だけの財力があるのか。
古代から近代にいたるまで、権力者、あるいか権力を握ろうとする者が把握しようとした事実です。
これを把握するためには、所有している財産、払わなきゃならない負債を金額に換算して正確に記帳し、一回の収穫でどのくらい増えるのか、戦争をしたらどのくらい減るのか。
帳簿に記録して、それを読みとることが不可欠であります。

古代バビロニアから、聖書の時代を経て、複式簿記の発明とルネッサンスイタリアの都市国家の興亡、近代資本主義の勃興から近年のリーマンショックまで。

会計と帳簿が歴史にどうかかわってきたかを物語的に描いております。

なお、帳簿の世界史、とありますがほぼ西洋世界の話がほとんどで中国やインド、イスラム世界の話は登場しません。
日本については、付録で追加されているだけですね。

歴史物語がメインで、マニアックな簿記会計の話ではないので、会計の前提知識がなくとも、読み物として楽しめると思います。


会計の基本【第2版】 この1冊ですべてわかる

会計の基本【第2版】 この1冊ですべてわかる

会計なんて、地味な経理係だけの仕事であって、魂の経営?をしている俺には関係ないとか、自分は金儲けには無縁の公共的な仕事をしているのでだから知りません、と言う方もいおられるのかもしれません。

しかし、魂はともかく、生身の人間が生活の糧を得るためには必ずお金の管理が必要です。
また、非営利組織であっても、(補助金や借入金を含めた)入ってくる資金が、出て行く資金を下回ってしまうと長期的には組織を存続させることすらできません。

財務・経理を担当している方だけではなく、組織に関わるすべての者、あるいは一市民であっても、基本的な「会計の感覚」を身につけていないと、自ら損失を増やすような判断を下してしまったり、「内部留保がー!」を代表とするトンデモに扇動されてしまうことになったりしてしまうことに。

会計というと退屈な簿記を連想して敬遠してしまう方も多いのですが、この「会計の基本」は簿記の知識が無い方でも読みとおせるように工夫を凝らしてあります。


日本の納税者 (岩波新書)

日本の納税者 (岩波新書)

給与所得者は、毎月、会社によって所得税源泉徴収されています。
租税法律関係は、国と源泉徴収義務者である会社との間にあり、給与所得者=サラリーマンと国との間には法律関係がありません。

一般に、サラリーマンが自ら負担している所得税に不服があっても、直接、裁判に訴えることはこの時点では、国との間に租税債権・債務の関係が無いので訴えの資格が無く、裁判所から門前払いされてしまいます。*1

この他に、消費税についても似た関係があります。

消費税法に基づいて納税義務を負うのは事業者であり、消費税を「負担している」はずの消費者と国との間には租税法律関係が存在しません。
所得税法の場合はまだ訴えを提起することは可能でしたが、消費税法の規定をめぐって、消費者が裁判を起こすことは不可能になっております。

本書は、日本の納税者がいかに無権利状態に置かれており、関心を持てない/持つ必要がなくなっているかという現状を説明したうえで、納税者の権利を守るための納税者権利憲章の制定などを提言しております。



弁護士が教える 分かりやすい「所得税法」の授業 (光文社新書)

弁護士が教える 分かりやすい「所得税法」の授業 (光文社新書)

「○○の特例を使うと税金が安くなる」
「相続財産評価を引下げするために××のスキームを」

巷に流布されている税金本はこういうのが多いです。
それはそれで読みたがる読者の需要があるので、どんどん供給されるのでしょう。
しかし、こういうのは毎年どんどん改正されますし、酷いのになると煽り宣伝だけでまったく実用に耐えないような本もあるのが事実。

本書は、時代が移ってもほとんど変化していない所得税法という「法律」の基礎的な仕組みを解説しています。

こういう基礎的な仕組みは毎年の税制改正でもほぼ影響を受けません。
基礎をマスターしていれば枝葉が変わったとしてもなんら、おそれることはないかと。

包括所得概念、帰属所得、権利確定主義・・など巷の税務本にはほとんど出てこない法的な話がでてきますので、基礎といっても易しくはありません。
じっくり読む価値がある本ではないかと思われます。


税法基本講義 第5版

税法基本講義 第5版

最後はちょっと難しめの本を。
大阪大法科大学院・谷口勢津夫教授の「税法基本講義」です。
基本講義、とありますが、判例を参照しながらの厳密な説明が続きますので、簿記会計から入った税務*2の方が読もうとしても難解でなかなか歯が立たないとも。
私はこのテキストを、参照されている判例もほぼすべて判決文原文まで遡り、他の基本書、判例評釈などクロスしながら繰り返し精読しております。

年明けの1月7日には第5版が発売されます。
年末年始には間に合いませんが、上記の「日本の納税者」「わかりやすい所得税法」などの入門書を読み終えて、さらに詳しく税法を勉強したいと思われましたら、ぜひ。




続きます。

*1:裁判を起こそうと思ったら、いったん(少なめに)確定申告をして税務署長から更正処分を受けその処分の取り消しを訴える、あるいは申告義務があるのにあえて無申告とし、税務署長から決定処分を受けてその取り消しを・・等のまどろっこしい手続を踏まなければなりません。 そうして訴えても、租税法には広範な立法裁量が認められるので、所得控除などの計算規定が不平等であり憲法で保障される法の下の平等に反するというのはほぼ認められないのが確立した判例です。大島訴訟最高裁大法廷判決昭和60年3月27日、など

*2:税法では無く、税金計算の技術としての税務

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