不祥事件の当事者を道徳的に断罪しても始まらない。というお話。
本日のお題はこちら。
- 作者: 井上泉
- 出版社/メーカー: 文眞堂
- 発売日: 2015/09/24
- メディア: Kindle版
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本書は企業実務家として損害保険会社に勤務しつつ、経営倫理の研究もされていた著者の手になるものです。
昨今も、オリンパス、東芝と企業不祥事が続き、その度に当事者の個人への感情的な批判や、「内部統制が機能していない」などの紋切り型で実は何も言っていないような非難も繰り返されてきました。
本書は、論証の骨格を実証的なものにしたこと、分析の視点を経営者からのものに置いたことに特徴があります。
私も東芝事件に関するジャーナリストの著作なども読みましたが、執筆者の道徳観から基づくやや的外れな感情的非難が目につくな、という印象も受けました。
本書に登場する10の不祥事事例に登場する当事者もやはり「悪い人間」が多いです(事後に外部から断罪するとすれば)。*1
しかし、それを非難しても、感情は満足するかもしれませんが何も教訓は引き出せませんし、実効的な再発防止策も策定できません。
本書では「不祥事件が起こりやすい企業の7つの特徴」や、不祥事を防ぐために株式会社に組み込まれた4つの仕組みを示し、それぞれの事件に当てはめ、実証分析を行っています。
全部をここで紹介するのは無理なので、本来、株式会社に組み込まれている不祥事を防ぐための4つの安全装置だけを。
①取締役による内部統制システム整備
②会計監査人による会計監査
③監査役による業務監査及び会計監査
④ディスクロージャーの充実による株主その他利害関係者の監視
それぞれの不祥事で、どんな企業が、どのような原因により事件を起こし、4つの安全装置がなぜ機能しなかったかが分析されています。
当事者個人の性格や道徳観については、ほんの少しだけ触れられているだけで、感情的な批判はいっさいありません。
原著は2014年に出版されたもので、取り上げられている事件には既に歴史の一ページになったかのようなものもありますが、今日、読まれるべき1冊だと思われます。
企業の経営者、管理部門に関わる方、投資家の皆さま、専門職の方々。それぞれに読み方があると思われます。ぜひ。