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すらすら日記。

すらすら☆

1円ストック・オプションの仕組みと、その効果について。

コーポレート・ガバナンスの一つの論点として、役員報酬の設計があります。
一般に、日本企業の役員報酬は欧米と比べて低く、これでは果断にリスクをとって経営を行うインセンティブに乏しい・・などとも言われております。

役員報酬の一つとして、株式による報酬がありますね。
企業価値の向上=株価の上昇=経営者自ら報酬アップとなり、株主と利害を共にすることになるので真剣に経営に取り組むというわけです。

株式報酬と言いますと、パッと浮かぶのはストック・オプションです。
現金給与の代わりに、あらかじめ決められた価格で株式を購入できる権利を渡しておき、一定の条件がクリアされると権利行使=会社から株式を購入*1でき、市場価格で売却すればその差額が役員の利益となるわけです。

例として・・

あらかじめ1,000円で株を購入する権利を取得。
一定の条件をクリア(業績条件など)
その時の市場価格は3,000円
1,000円で株を購入して3,000円で売却するので、差額2,000円×株式数分が報酬に。

さて、最近始まりましたコーポレート・ガバナンスブームの前から、役員報酬の改革として、投資家から批判されていた制度として役員退職慰労金があります。
これは、勤続年数に応じて慰労金*2が積み上がっていくので、経営の巧拙に関わらない年功制度だとして極めて評判が悪かったです。

この批判に応えて、10年ほど前に伊藤園が始めたのが1円ストック・オプションです。
権利行使期間が退職から10日間に限定されている新株予約権の権利行使益に係る所得区分について|東京国税局|国税庁
税制上の問題をクリアするために、事前照会を行っているので制度の詳細を知ることができます。

これは、退職金の代わりに、1円で株を購入できるストック・オプションを役員に与えるものです。
先ほど説明したとおり、株価上昇=自らの報酬アップに繋がるので、真剣に経営に励む・・という効果が期待できると説明されておりました。

役員退職慰労金制度は次々廃止され、1円ストック・オプションは、かなり普及しております。


しかし、この制度、思わぬ逆インセンティブ効果があることが近年、指摘されております。*3

制度設計上、交付されるストック・オプションが「金額換算でロック」されているので、株価が下がると付与される口数が増え、在任中は株価が低い方がいっぱい貰えるという仕組みなっているのです。
そして、退任してから、自分の後任が頑張って株価が上昇する→無関係な退任役員のもらった株が高値で売れるというなんだこりゃ状態に・・
つまり、役員在任中は頑張らない方が得だ、という逆のインセンティブが働いてしまうわけです。*4

さらに、退任した元役員はインサイダーの関係もあり、退任後一定期間、株を売却することができません。*5
しかし、税制上、ストック・オプションを行使して株式を受け取った時に退職所得として課税されてしまいます。
株を売れば納税できますが、契約で売れない→税金払えない!というまたしてもなんじゃこりゃです。*6

というわけで、この1円ストック・オプションは徐々に廃止されております。
代わって登場したのが、株式報酬信託ですね。
www.mizuho-fg.co.jp

1円ストック・オプションの欠陥を解消していると聞きます。


1円ストック・オプションの逆インセンティブ効果はこちらでも説明されております。

コーポレートガバナンス・コードの実践

コーポレートガバナンス・コードの実践


なお、いつものことですが、本稿はすべて公開情報に基づいており、いっさいの内部情報を含んでおりません。念のため、申し添えます。


*1:新株を発行する場合と、自己株式を交付される場合とありますが、後者が事務が簡便なので、一般には自己株式交付が多いとも聞きます。

*2:名前もよくないですね。何を慰労すると言うのでしょう。

*3:Twitterで@kazemachi2 さんから「1円オプションは退職時行使だけではないし(伊藤園方式はむしろ少ない)、金額ベースで付与数を調整するのはグローバルに見てむしろ主流。毎年付与するし実現価値は変わらないから逆インセンティブにもならない」とのご意見をいただきました。付記しておきます。

*4:これは理論上の話であり、実際にはこの複雑な制度の逆インセンティブ効果を当事者である役員が理解しているかは疑問です。さらに、口数を増やすために「手抜き」をするとは思えません。

*5:これは法的な規制ではなく、会社内部の契約で定められていることが多い。

*6:退職所得は支払者に源泉徴収義務がありますので、あらかじめ何らかの手段で現金を用意しなければなりません。

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