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長期的な金利低下傾向が銀行収益に与えた影響と今後について。

証券アナリストジャーナル」10月号に掲載されていた植田和男教授「マイナス金利政策の採用とその効果」を興味深く読みましたので、そのうち、金利低下と銀行経営に関する部分を引用し、少々解説したいと思います。

目次だけこちらで参照できますね。
www.saa.or.jp

バブル崩壊後、1990年代後半以降、長期金利は時々の上下動はありつつも、長期的なトレンドとしては一貫して低下傾向にあります。

植田教授はこのように述べています。

債券関係の評価益をより長い期間から見ると、1990年代後半以降長期金利がならしてみれば低下を続ける中で、銀行をはじめとする債券保有主体は機動的な売買によって大きな利益を享受してきた

金利が低下した場合、固定利付債券の価格は上昇するという関係を想起してください。
国債は固定利付債であり、市場金利が低下すると銀行が従前から保有していた相対的に高い約定利率が付いている国債の価格は上昇します。

つまり、長期金利が低下するトレンドの中、銀行は黙っていてもその保有債券に含み益が溜まっていくという構図になっていたわけです。

この含み益は、貸出金利回りの低下による収益目標未達成を補ったり、貸出先の不良債権化による貸倒損失、リーマンショック時の株式や不動産向け投資商品の価格下落による減損処理などの損失の穴埋めすることに使われたりするため、その場その場で、機動的な「益出し」に使われてきました。*1

植田教授はその影響をこう述べています。

債券からの直接の利息収入を除く債券関係損益は、1997年から2015年までの期間の全国銀行の税引前利益の約20%を占めている

その後、マイナス金利政策が導入され、一時は長期金利(10年)まですべての利回りがマイナスになってしました。
マイナス金利下でも、金利低下と債券価格の上昇の関係は変わりません。
個別銀行ごとに含み益の水準に多寡はありますが、銀行セクター全体では、まだまだ国債の含み益を温存できております。
しかし、金利環境下では、含み益を実現してしまう(国債を売却してしまう)と、再投資先がなく困ってしまうことに。

植田教授は次にこう論じています。

こうした構造が今回のイールドカーブ全体のゼロからマイナス化で消滅しつつあり、金融機関収益にとっては大きな問題である

植田教授の論文は、今般の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の前に執筆されたものです。

「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」では、短期金利はマイナス0.1%~長期金利(10年)はゼロ%前後とすることでイールドカーブを「立てる」ことを目指すものです。

イールドカーブのスティープ化が起きても、最初に述べたような趨勢的な金利低下が復活するわけではありません。
銀行にとって、金利低下による収益の源泉は失われているとみてよいでしょう。

マイナス金利の深堀りはさらなる銀行収益の悪化を招くとの意見もあります。

しかし、金利の低下は一方で保有債券の価格上昇という効果ももたらします。

今後について、注視したいと思います。


*1:もちろん、従来から保有し続けていた国債の益出し売却だけでは無く、金利の上下動を予想し新たに購入した国債をタイミングをみて売却することによる収益獲得も行われたことでしょう。

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