すらすら日記。

すらすら☆

誰かの立場を忖度して現実を捻じ曲げるという配慮の苦しみについて。

メガバンクのシステム更改がスケジュール通り進んでいないのか、「完了」した後に何か別の作業を行うという、いったい「完了」とは何のことなのか疑問をぶつけたくなる画像を見かけました。

おそらく、現実には上手く進捗していないのだが、それを正直に告げてしまうと責任者である偉い人の立場が丸潰れになるし、さらに現場の人々も責められるという事態をなんとか糊塗するために、配慮が行われたのではないか、という推測も。

ガダルカナル島からの撤退を「転進」と言い換えたこと、
ブレジネフ時代、停止した列車の中でカーテンを閉めて「列車は共産主義へ向けて着実に進行している」と乗客が自ら車体を揺すぶったというアネクドート
決して失敗を認めない、某中央銀行総裁の強弁の数々。

現実を認めてしまうと、つらい。
誰かの立場、特に責任を取らなければならない偉い人のメンツが潰れてしまう。
現場の人々も苦い真実に直面して、偉い人から怒られたり責められたりしかねない。

そうやって、お互いに配慮しあってギリギリまで先送りすることは、一時は楽かもしれません。
ひょっとしたら、周囲の環境が変わって事態が好転するかもしれない。そんな淡い期待も。
現場で、現実のまずい状況に気付いている人にとって、この「捻じ曲げている」配慮は地獄の苦しみです。
後からみんなが現実に直面した時に、偉い人は「責任をとって」逃亡するでしょう。
でも、現場ではその口を開けた現実のグチャグチャに対処し、なんとかしなければなりません。

現実を見て見ぬふりをする仕草をとることは、一時的には楽に見えるので、誰にとってもつい誘惑に駆られてしまうものです。
しかし、その間、効果的な対策は取られません。
だって、表面的には上手く行っているのですから。
後からの苦しみを考えれば、立場に配慮するより、現状でできる対案を考える時間を割くべきなのですが。

誰かの立場に配慮する。
その美しい姿勢の陰に、苦しみが隠れていることも思い出してみていただければと。


会計不正は偉い人だけでは完結せず、実行者がいるというお話。

本日のお題はこちら。

内部告発の時代 (平凡社新書813)

内部告発の時代 (平凡社新書813)

本書はオリンパス粉飾決算内部告発した方と、それをFACTAに持ちこんだ記者による手記です。

オリンパスの会計不正については多くのことが雑誌・ネット記事、単行本で発信され、私もだいぶ読んでいろいろ書いておりますので、いまさら付けくわえることはいたしません。

本書でも、新しい事実関係などは明らかにされているわけではありません。

一つだけ、本書を読んで気になりましたことを。


オリンパスに限らず、大規模な粉飾決算は経営者の自己保身の動機から始まりますが、社長や財務担当取締役など偉い人( )だけでは完結しません。

「不正の絵を描く」のは上層部でしょうが、帳簿に不正な仕訳を記録し、それを糊塗する取締役会資料などを作成する実行者が必要になります。

オリンパス事件でも、不正にかかわったとして17人の幹部社員が調査を受けておりますが、実際に処分を受けたのは一人が降格処分になっただけで、おとがめなし。

「経営刷新」がなされた後も、それら不正の実行者たちは幹部の地位を維持しているとのことです。

オリンパスでは長年に渡り不正が継続されてきたため、本社管理部門では、経営陣の命令に忠誠を誓って不正に協力するか、見て見ぬふりをするか、そもそも会計や財務の知識が無く不正が行われていることに気付かない者だけになってしまっていたとも。

わかりつつも不正に協力するよりも、無知で命令に従うだけの方が、会計不正の誘惑に駆られる経営陣には「使いやすい」とも思われます。

今は、まだ経営刷新がなされて日が浅いため、緊張感があるでしょう。

しかし、また気が緩んで、その時にまた会計不正の誘惑に駆られた場合、いくら会社法上の機関で牽制を効かせようとしても、実行者に不正を働いている意識がなければ、それは通りやすくなってしまうとも感じております。

人も組織も、緊張感をそんなに持続できるものではありません。

その時、無知で考える能力も無い部下がいたら、不正な指示を出すことに躊躇うでしょうか。

そんなことも感じております。


Kindle定額読み放題サービスおすすめの10冊。(金融・会計・経済学編)

追記(8月13日):ラインナップが入れ替わっていたので読み放題対象外となった書籍を削除いたしました。
逐次、入れ替わりしているようですのでご利用の際はご注意ください。

いよいよkindleの定額読み放題サービス(月額980円)が本日から始まりました。
最初の30日間はお試し無料ですね。
Amazon.co.jp: Kindle Unlimited:読み放題ストア: Kindleストア

和書では3万冊がラインナップに入っているそうです。

あまりに膨大なのでとてもとても探しきれないかと思います。

ざーっと眺めてみたところ、これって自費出版?のような、独自の見解に基づく、トンデモっぽい本も多数混ざっておりまして、いったい何を選んだら・・という状態ではないかと思われます。

いくら定額読み放題とはいえ、トンデモ本を掴んでしまっては時間がもったいない!
そこで、私が多少なりとも読んだ経験があります金融・会計・経済学から10冊、選んでみました。
なお、当然のことながら、会員登録しないと通常通り課金されますので、定額読み放題サービスで読むことを希望される場合は、事前に会員登録のうえ、お願いいたします。


①金融編
まずは「マーケットの魔術師」シリーズです。同シリーズから何作も読み放題に入っております。


ざっくりわかるファイアンスも良いですね。まったく知らない方でも理解できる本だと思います。

また、同じく石野雄一氏の手になる「道具としてのファイアンス」の問題集もラインナップされております。

道具としてのファイナンス 問題集

道具としてのファイナンス 問題集

先日読んで面白かった山崎元さんのこちらも。
銀行には買うべき金融商品はいっさい無いから近づいてはいけないということが繰り返し説かれております。


インデックス投資家・水野氏との共著のこちらもありますね。

②会計編
いつもおすすめしております、岩谷誠治公認会計士の「会計の基本」が入っております。

わかりやすくBS・PL・CFの各財務諸表のつながりを解説してくれる「財務3表」シリーズで有名な國貞克則氏の著作からは、こちらがリスト入りしています。

初心者からの「財務3表」スピードマスター

初心者からの「財務3表」スピードマスター


以前、ご紹介しました「3年後に必ず差が出る 20代から知っておきたい経理の教科書」もおすすめします。


(記事は広告の下へ続きます)


③経済学編
神取道宏先生の「ミクロ経済学の力」も入っています!この面白いミクロのテキストが定額サービスで読めるとは感動ものです。

ミクロ経済学の力

ミクロ経済学の力


学部1年生向けの入門テキストとしてよく使われている伊藤元重先生の「入門経済学」もあります。
社会人の方の再学習用、学生時代に経済学を履修しなかったけど・・という方にもおすすめですね。


また、金融・会計・経済学分野で新しいのを見つけましたら記事を作りたいと思います。
その他の分野でもリスト化してみたいですね。

みなさんのおすすめがありましたら、ぜひ、お知らせください。

地銀を考えるためのブックガイド。

最近、地方の人口急減による衰退の様子がいよいよ現実のものとなったことと、マイナス金利下で資金運用が極めて困難になっていることも合わせ、地域に密着して経営を行っている地方銀行について関心が集まっています。

ウェブで見かける記事の中には・・
もっぱら合併・再編の組合せなどのセンセーショナルなものや、

いったいいつの時代の話題の蒸し返しかという貸し渋り

あるいは運用難から、不動産融資への傾斜のリスクを強調するものなど、あまり的確な切り口ではないな、と思われるものも散見されます。

そこで、いくつかブックガイドを。

まずは、ベストセラーになっている「捨てられる銀行」。

捨てられる銀行 (講談社現代新書)

捨てられる銀行 (講談社現代新書)

各地銀が数十冊単位でまとめ買いしているとも聞きます。
詳しくは私もレビューを書きましたのでこちらを。
sura-taro.hatenablog.com


横浜銀行頭取の伊東氏の手になるシリーズで3冊でております。

地銀の選択― 一目置かれる銀行に

地銀の選択― 一目置かれる銀行に

地銀連携―その多様性の魅力
地銀の未来―明日への責任

これらの本については、「当たり前のことを書いているだけだ」との批判も聞こえておりますが、この当たり前のことが当たり前にできていないのも地域金融機関が苦しくなっている原因なのかもしれません。
また、横浜銀行のようにある程度の規模を確保しており、都市部に位置している地銀ならば当てはまる記述は多いかと思いますが、本当に産業が無く、人口が急減している地方に所在する規模の小さな地銀には該当しないとも思われます。

新しいものでは、今年6月に名古屋大学で金融論を教えている家森教授との共著もでておりますが、未読です。

地銀創生―コントリビューション・バンキング

地銀創生―コントリビューション・バンキング

こちらについては後ほど。

2年程前に出ました、署名もズバリ「ザ・地銀」です。

地銀は「構造不況業種だ」という現実を突きつけるところから始まり、統合・再編も含めた長期的なビジョンで経営に当たれば・・という展開となります。
法人融資、個人営業のやり方の提案から、人材育成のあり方にもふれています。
本書を読んだ感想としては、これらの提案をこなせる地銀は、ある程度の規模(預金量・融資量と人材の厚み)が確保できているところに限られるのではないか、これは無理だ、とも感じたことを思い出しております。

週刊金融財政事情に連載されていたものに大幅に加筆修正して単行本にしたものがこちら。

やはり、人口急減という環境下で合併を選択するか、独自モデルを作るかの選択を示したうえで、「不都合な現実」を突きつけております。
伊東氏の本にも出てきますが、こちらでも地銀と地方自治体との関係にも言及しております。

続いては、地銀だけではありませんが、銀行経営の課題をまとめた「金融機関マネジメント」を。

こちらは、金融機関の事業が伝統的な融資だけではなく、非金利業務を加えてどのように成り立っているのかから始まり、それらを管理するための新しい流れを解説しております。
それらの課題に対し、現行の金融機関の組織や人事体制が対応できていないことの指摘も。
もともとは、大学院での金融機関から派遣されてきた社会人向け学生に向けて行われた講義が元になっているようです。さぞかし、耳が痛い指摘が多かったのではないかと。

オマケとしまして、影響を受けるのは地銀に限りませんが、野村総合研究所がまとめた日本人の金融行動に関する書籍が興味深いので参考に。

なぜ、日本人の金融行動がこれから大きく変わるのか?

なぜ、日本人の金融行動がこれから大きく変わるのか?

地銀に影響するところでは、地方に居住する高齢者が死去して保有する多額の預金が、相続人である子息が居住する都市部へ流出するということが指摘されており、その金額は年間数兆円にもなるのではないかという推計も行われております。
実際には地方銀行では預金は増加が続いておりますが、この流出効果が効き始めるのは、そう遠くはないのかもしれません。

最後に、気になる点として、主に高齢者向けに行われている投資商品(投資信託や年金保険)の売り込みの問題についてまとめて書かれた本は見当たりません。

投資商品の販売は、資金運用難下で手っ取り早く手数料を稼げる手段として盛んに行われています。
しかし、個人の資産運用商品としては大きな疑問符のつく高コストかつ複雑なものであり、地域貢献の看板とは大きく矛盾するのではないかと言わざるを得ません。

こちらについても持続可能性に疑義があると感じております。


社会の中に「ここから先は弱い。」という線を引くという手段ではなく。

「税金は金持ちから取れ!」という声は、今でも広く賛成意見を集めるようです。

ただし、この金持ちという定義は人によりバラバラで、どうやら皆、「自分よりちょっと収入が多いか、自分より少し資産を多く保有している人たち」のことを指しているらしく。

年収1,000万円の人であれば、年収1,200万円以上の人には増税してもいいとかいう都合の良い主張をしていたりも。

自分から税金をもっと取ってくれ!という奇特な人はなかなかおりません。

逆に、「弱者には配慮すべきだ!」という声にも、表立っては反対の声は大きくはありません。

同じく、「弱者」という定義は曖昧です。

弱さの種類によっては、政府が、我々が選んでいる議員たちが作る法律に基づいて、いろいろ配慮してくれる場合があります。

収入が少ない。
 究極的には生活保護。そこまで行かなくても、住民税非課税のレベルであれば今度は政府が15,000円を配ってくれるようです。

働きたいのに子供を預ける場所が。
 これについても、不十分ながら支援策を競っている状態になりましたね。

家賃が高いからなんとかしてくれ。
 先日、デモがあったようですが、賛同の声はあまり聞かれませんでした。

モテない。
 少子化問題対策の一つとして行政が異性との出会いの場を設けてくれることもあるようですが、最終的に選ぶ/選ばないを決めるのはその人同士なので、配慮は最低限かもしれません。

気になるのは、いろいろな「弱さ」について、「あなたは弱いので配慮を受ける側ですよ」という線引きをしてしまうと、自分は弱くない、税金で支援されるなんて嫌だという人々が出てきてしまうことです。

もちろん、そんなの気にしない、貰えるものは病気以外なんでも貰うという人々も多いのですが。

得てして、本当に配慮が必要な人々は、恥の気持ちからか我慢してしまって、線引きの向こう側へ行くことを嫌がるのではないか。

また、「ここから先は強いからお金と労力を出す方」ということになれば、自分たちはもらえないのに出す一方か!ということで反発したり、配慮される方を恨んだり差別したりする気持ちが起きてしまうかもしれません。

本当は、一生涯に渡って、配慮を受け取るだけとか、配慮を出し続けるだけということは無いはずです。
生まれたばかりの赤ちゃんの時は、誰かの配慮を受けなければ生きていけません。
大人になり働いて自分の糧を自ら得られるようになっても、病気や怪我の時は誰かに助けてもらっています。
年老いて働けなくなれば、やはり別の誰かの配慮を受けるでしょう。

いえ、それだけじゃなくて、授受の損得だけではなくて、生きているだけで尊重されるのが当然だと。
「いつか自分も配慮を受ける側になる」だから、今は助けるというのではなく、この世に生きているだけ、ただそれだけで同じ人として尊重される。

みんなが聖者のように思いやりを持つのは不可能ですし、ベーシック・インカムのような大掛かりな仕組みを作るのも今すぐにはできそうもありません。

「ここから先は弱い」という線を引かないで、相互に足りない部分を助け合えることができて、出すのは当たり前で、受け取るのも恥ではないというような社会になれればいいのかな、とも。

一人ひとりができることは、何かあるのでしょうか。

そんなことも考えております。

試験紙としての、嘘で生計を立てる人々について。

世の中には一定数、「嘘、あるいは嘘と事実を混ぜ合わせた曖昧な情報を連続して流すこと」により生計を立ててている人々がいます。

その方々は、ジャーナリスト、評論家、著述業などという肩書を名乗っていることが多いですね。

時々、嘘を暴かれてこっぴどく批判されていることもありますが・・

周りが真実を突きつけて嘘を暴くためにはちゃんと事実関係を確認する・論理たてて誤りを指摘するという高いコストがかかるのに対し、嘘を並べたてるのコストは安く、連続して怪しい話を並べられると、とても太刀打ちできません。

それに、その嘘は一定数の人々にとって耳に心地よく、嘘で生計を立てる人々の周りには信者=その怪しい言論をお金を出して購入してくれる人々が集まることに。

そうなると、嘘で生計を立てる人々は時々、嘘が暴かれて炎上しても、信者から著書・メールマガジン・セミナー・サロンなどで集金できる限り、止められないわけです。


嘘で生計を立てる人々は、まともな方々からは相手にされません。

時に、大学教授、弁護士、作家、大手のジャーナリストなど、社会ではまともな職業と思われている方々が、嘘で生計を立てる人々が流している情報に飛びつき、それを広めたりしていることを目にします。

おそらく、その流れてきた嘘が自分の好みに合っていたため、真偽を確かめることも無く飛びついてしまったのでしょう。

ちょっと調べれば、その情報元の人物が、数々のデマ流布を指摘されていることがわかるはずなのですが。

困った人々である、嘘で生計を立てる人々ですが、一見、まともと思われていた立派の人々の知性の無さ、思慮の浅さを試験紙の色を変えて暴いてくれたわけです。


私も生身の弱い人間ですから、どこからともなく流れてきた都合の良い情報には飛びつきたくなります。

しかし、それが誰が、どんな情報源から流しているものなのか。

反射的には飛びつかず、一呼吸置くことにしたいと思います。



ヘリコプターからお金をばらまけば、政府の利払い負担をゼロにできる?

最近、「政府の財政支出に必要な資金を国債発行ではなく、直接、中央銀行の資金でファイナンスすることで需要を拡大し、デフレから脱出する」=ヘリコプター・マネーというのが話題になっております。

これは、もともとはフリードマンが1969年に発表した「ヘリコプターからドル紙幣をばらまいたらどうなるのか?」という思考実験論文に基づくものです。
今年4月、バーナンキFRB議長がブログにヘリコプター・マネーについて書いたことで、注目が集まることになりました。

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本稿は、7月25日の週刊金融財政事情に掲載された翁邦雄・京都大大学院教授の記事を基に、「ヘリコプター・マネーによって政府の利払い負担をゼロにできるのか?」という論点を中心として、同記事の一部を参照して、私なりにまとめたものです。*1

ヘリコプター・マネーは、金利ゼロの紙幣をばら撒くことで実施できるので、政府の利払い負担も減少させることができる=コストが無いとも主張されます。
さらに、近年行われているような赤字国債発行による財政支出拡大は、将来の増税を予想させ、消費を抑制する効果もある(いわゆる非ケインズ効果)とされていますが、ヘリコプター・マネーは現在も将来も増税の必要性が無いため、非ケインズ効果も起こさないとも説明する論者もいるそうです。

これは、本当でしょうか?

まず、前提として、ヘリコプター・マネーの目的は2%のインフレ目標達成=経済の活性化です。
経済が活性化して物価が上昇すれば、自然に、金銭に対する需要の強さを表す金利も上昇していくものと考えられます。この時の日銀の短期金利誘導目標も2%と置きます。*2


最初に、この頃よく見かける議論として、民間が保有する国債は激減し続けているため、統合政府(政府+中央銀行)でみれば国債が減少し、財政状況は劇的に改善しているとの論法があります。
論者によっては、政府の負債である国債は、中央銀行の資産であり、あたかも財務会計上の連結決算のように国債は「相殺消去」され、この世から消滅してしまうとの考え方もあるようです。
しかし、民間銀行は、国債の代わりに日本銀行当座預金を受取ります。これは国債を「連結相殺」した後も、統合政府の負債であることに変わりはありません。
異次元緩和による国債買入は、政府債務を消滅させるものではなく、統合政府の債務を国債から日銀当座預金に置き換えし、期間構成を短期化しているものに過ぎないという前提を念頭に置いてください。

日本銀行当座預金は現在、マイナス0.1%~プラス0.1%で付利されており、ゼロコストではありませんが、単純化するためにゼロとします。
2%のインフレ目標が達成された後には、法定準備を超えた日銀当座預金に2%の付利を行うこととします。もし、日銀当座預金がゼロ金利のままであれば、短期金融市場金利との裁定が働き、短期金利誘導目標2%を維持することはできないためです。*3

このように議論の前提を置いたうえで、デフレ脱出・経済活性化を目的とした100兆円分の支出を増やすことにします。

そのために3つの手段を挙げます。

①政府が永久国債100兆円を発行して、民間銀行が引き受ける。これは現在でも行われているので、ヘリコプター・マネーとは言えないと思われます。
この場合、100兆円の支出を行うのは政府です。

②政府が永久国債100兆円を発行して、日本銀行が直接、引き受ける。広義のヘリコプター・マネーです。支出を行うのはやはり政府ですね。

日本銀行券を国民に直接、100兆円をばら撒く。これが純粋なヘリコプター・マネーです。
支出を行うのは政府ではなく、個々の国民です。

翁教授は、いずれの手段を使っても、公共事業や個々の国民の資産購入・消費(飲食でもアプリゲーム課金でもなんでもよい)に充てられた100兆円は、最終的には民間銀行に預け入れられ、日銀当座預金に還流することになるとしています。

先ほど述べましたとおり、最初は統合政府(政府+中央銀行)の利払い負担はゼロですが、2%の目標達成後は100兆円×2%=2兆円の負担が生じることになります。

この2兆円を受け取るのは、民間銀行ですね。

国民や企業は最初、日本銀行券を現金のまま保有することも考えられますが、金利が上昇すれば、金利収入を求めていずれ民間銀行に預け入れることになります。

ヘリコプター・マネーを実施しただけでは統合政府の利払いはゼロにはならないため、一部で主張されるような「魔法の杖」ではないことがわかります。
バーナンキ前議長は、この2兆円利払いというデメリットを打ち消すために、同時に民間銀行へ課税を行うことも提言しているそうです。
銀行課税は、具体的には日銀当座預金への2%付利を行わない=法定準備率を引き上げて付利される日銀当座預金の残高水準を狭くするとの手段で行われることでしょう。
銀行課税は、最初、銀行(=銀行の株主)へ帰着しますが、いずれは課税を第三者へ転嫁しようとして、銀行をめぐる利害関係者、すなわち国民全体へ負担が分散されていくことになります。これは、国民全体が課税されると似た状態になるわけです。
そうなると、ヘリコプター・マネーのメリットとして挙げられていた、将来の増税予想による消費抑制=非ケインズ効果を起こさずに財政支出を拡大できるという説明も成り立たないですね。

本稿では、「ヘリコプターからお金をばらまけば、政府の利払い負担をゼロにできるのか」という論点を中心にしており、財政規律喪失の問題や、100兆円の財政支出による経済活性化が税収増加をもたらして、ヘリコプター・マネーのデメリットを打ち消すなどの論点には触れておりません。

それらにつきましては、私自身も勉強を続け、考えていきたいと思います。

ヘリコプター・マネーとは直接、関係ありませんが、バーナンキ前議長の回顧録はこちらです。



*1:言うまでもなく、記事の読み誤り・経済学や金融実務等の知識不足による誤りは私個人に帰属します。また、詳しくはリンク先の雑誌に掲載されている翁教授の論考をお読みください。

*2:数字は仮のもので、2%という数字自体に意味はありません

*3:この付利の問題は後ほど、銀行への課税として取り上げます

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