「わかりません。」で止まってしまう人について。
仕事をしていると、要領を得ず何が聞きたいのかよわからない質問が来たり、誰宛てかわらかず詳細不明な郵便物などが届くことがあります。
大企業ですと組織がでかいものですから、顧客や、社内でも業務分担に精通していない営業拠点からこういうのが来ますね。
それで、たまたま受けた人は、
「わかりません。」で何も調べようともせずに目の前から「消して」しまう人と、
さて、この人は本当は何が聞きたいのだろう・・といろいろ質問を返したりして調べてあげる人と。
先日、「わかりません。」で切ってしまわれて困っている人がいたので、私が横から入り込んで調べてみたら、その人の聞きたいことは正に、その「わかりません。」で止まってしまった人が必要な情報を持っていたという結末が。
顧客など、外部の人は「自分が聞きたいこと」を上手く言葉にして伝えることができません。
逆に質問して「本当に聞きたいこと」を引き出してあげないとならない場面は多いのではないかと。
それなりに勤続年数も長くて知識はそれなりにあり、相対的に高い給与を貰いながら、「わかりません。」で切ってしまう人はよく見受けられます。
その人が切り捨てているのは、問題を解決してもらった人からの感謝であったり、将来のより良い仕事だったりするのかもしれません。
銀行の資産変換機能について。
当たり前のように利用している銀行の普通預金口座や住宅ローン。
実はこれらは銀行という金融仲介機関が存在し、資産の性質を変換する機能を持っているから利用可能になっています。
金融に関する池尾教授の「現代の金融入門」に、銀行の資産変換機能について説明されているのですが、これがなかなか理解しづらい・・
- 作者: 池尾和人
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2014/02/07
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なので、もう少し詳しく、実際の銀行の金融商品を挙げながら説明してみたいと思います。
今すぐ使わない5,000万円の現金を持っていた資金余剰者Aさんと、
土地取得と建築費用が合わせて5,000万円かかる住宅の取得を考えている資金需要者Xさんがいるとします。
資金余剰者Aさんは、とりあえず今すぐは使わないけど、子どもの教育費とか何か資金需要が発生するかもしれないので、いつでも現金に換えられるようにしておきたい。
資金需要者Xさんは、一括で5000万円は払えませんが、分割で月々15万円づつなら返済できる能力はあります*1。
そこで、金融を仲介する銀行は、お金が余っているAさんから5000万円を預かり、普通預金という金融商品を発行します。
普通預金は、Aさんのニーズどおり、いつでも銀行が払い戻しに応じてくれますね。
Xさんは、金銭消費貸借契約証書、一般に言う借用書を銀行に差し入れることで5000万円を一括して借入し、マイホームを手に入れることができました。
この一連の取引により、最初にAさんが持っていた5000万円のお金が、普通預金という金融資産と、住宅ローンという金融資産に「変換」されました*2。
もし、金融を仲介してくれる銀行が存在しない場合、Aさんの「いつでも払いだして欲しい」というニーズと、Xさんの分割で返済していきたいというニーズは一致しませんから、住宅建設という社会に新しい富を生み出す行為は行われなかかったことになるでしょう。
これが、金融仲介機関=銀行が果たす資産変換機能です。
こちらの説明では、Aさん、銀行、Xさんしか登場しませんから、Xさんが返済を進めるまでAさんは預金を払い戻せないのでは?という疑問がでるかもしれません。
しかし、現実には、社会には無数の資金余剰者と資金需要者がおり、資金余剰者がいっせいに預金を払い戻そうとはしませんから、銀行は巨額の預金に比べればわずかな現金を手元に置くことで対応可能になっていますね。
これは法律で義務付けられた日本銀行への準備預金制度とも絡みますが、また別のお話しになりますので、本エントリーでの説明はここまでにいたします。
どうやって「自分で調べて解決する」能力を身に付けたのか、思い出せないお話。
仕事に必要な知識はとても幅広く、日々どんどん変化していきます。
新人や異動してきたばかりの人に、必要な知識を完全な形で教えることは容易ではありません。
なので、会社全体で行われる集合研修では最低限の基礎しか教えられず、ほとんどの業務知識は、それぞれの職場単位で教えられることが多いのではないかと。
いわゆる、OJTというものですね。
OJT=
— すらたろう (@sura_taro) 2017年3月27日
お前が
自分で
トレーニング
・・ではありません。
さて、知識を教えるのは、割と簡単だと思います。
でも、上司がスタッフの「わからないところ」がどの辺りなのか、その部下の今までたどってきたキャリアパスや経験レベルによりバラバラであり、どんな知識を注入すれば仕事に役立つのかは、なかなか難しい。
本当は、部下がわからないポイントにぶつかった時、自分で調べて解決できる方法を習得できればいいのですが。
ただ知識を教えるのではなく「何をどう調べれば自分が仕事でぶつかった疑問を解決できるのか」そういう問題解決能力を教え込むのは、非常に難しい、のではないかと感じております。
たいていの人は、言われた通り、教えられた通りにやるのが精いっぱいで、何か新しいことに対応しなきゃいけないなどとは思いもしませんから。
いったい自分はどうやって「調べる方法」を習得できたのだろうか。
思い出そうとしているのですが・・
いえ、思い出せたとしても、それを言葉にしてスタッフに受け継がせることができるのか。
そんなことを考えております。
言われたことができる、というレベルの希少性について。
管理職の嘆きとして「部下が言われたことしかできない」とかいうのを聞きます。
しかし、言われたこと=指示事項をきちんと理解してそのとおりにやりとげる、というのはかなりの能力がなければできない、というのが本当のところではないでしょうか。
かなりの部分のスタッフは・・
そもそも、言われたことを理解できない
理解できても、指示どおりにできない
というのが実情です。
例えば、何枚かある紙の資料からある箇所の数字を拾いだして数字に集計する、という単純な事務作業であっても・・
拾うべき数字がどれだか把握できない(ちゃんと指示を聞いていなかった)
聞いていたんだけど、やっているうちに混乱してきて別の場所の数字を入力してしまった
最後まで正しい場所の数字を抽出したんだけど、入力する時に間違ってしまった
こんなところです。
コピペしかできない
言われたことしかできない
そんな嘆きをもってはいけません。
言われたことを確実にこなしてくれる。
その稀少性を持ったスタッフを大切にしなければならないと思います。
新人の銀行員におすすめしたい本5冊。
新人の銀行員に読んで欲しいおすすめ本を5冊紹介したいと思います。
ご紹介する本は、日常の仕事に直接、役立つものではありませんが、金融にかかわる社会の仕組みなど、その背景を知ることができれば、単調でつらく思われる仕事の「意義」のようなものも理解できるかもしれません。
- 作者: 池尾和人
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
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池尾教授の「現代の金融入門」です。
そもそも何のために「金融」というものが存在するのか、銀行貸出により行われる「信用創造」とは何か。
わが国の中央銀行である日本銀行の役割、金融政策とは何か、など。
経済学や金融の前提知識がないと難しく感じられる部分もあるかもしれませんが、金融に関わる仕事をしているなら理解しておきたいことが学べます。
- 作者: マイケル・ルイス
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/01/15
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金融は、複雑な法制度やシステムに支えられておりますが、他の産業と同じくそこに従事しているのは生身の欲望を持った人間たちです。
本書、「世紀の空売り」は米国において、低所得者でも家を持てるというサブプライムローンの隆盛による空前の住宅ブームのまやかしを見抜いて、「空売り」*1を仕掛けてバブル崩壊時に大儲けした人々を描いております。
金融機関は、どこの国でも政府・公的機関による厳しい規制に縛られていますが、なぜ、そのような規制が設けられているのかは、この米国サブプライムローン危機とリーマン・ショックのことを知らないと理解できないと思われます。
読み物としてたいへん面白い1冊なのでぜひ。
本書、マネー・ショート 華麗なる大逆転 [Blu-ray]として映画化もされています。
- 作者: 鹿野嘉昭
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2013/05/31
- メディア: 単行本
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金融は歴史的に形成され、政府の規制によりデザインされてきた制度の固まりでもあります。
現実に存在する金融制度が、どのような法制度に支えられており、どのように機能しているのか。
さまざまな金融市場がどのような参加者を迎え、どのように運営されているのか知ることができます。
自分が属する金融機関の位置づけなども理解できるでしょう。
- 作者: 堀内勉
- 出版社/メーカー: 中央経済社
- 発売日: 2016/12/28
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事業会社がファイナンスを受けようとする場合、銀行借入や社債発行など、様々な手段が考えられます。
ファイナンスというと難解で現実味がない数式や理論ばかり・・というのではなく、実際にわが国で利用されている制度を紹介して、まさに「実践」のために使える実務書です。
事業会社と相対する金融機関の営業もこのくらいは理解していないと話が通じないでしょう。
- 作者: 内田浩史
- 出版社/メーカー: 有斐閣
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大学で使用される金融論と呼ばれる学問の教科書は、難しい数式ばかりがでてきて現実との接点がなかなか理解しにくいものです。
本書も大学の学部向けテキストですが、実際の制度まで目配りして記述されており、実務家がわからないところを辞書のように引いて調べるのにも使える平易な金融のテキストです。
最新のものであり、マイナス金利政策など、今日的なトピックにも触れられています。
こちらも合わせてどうぞ。
mamechiblog.hatenablog.com
民間銀行は日本銀行からどんな資金を借り入れている?
お題箱にこういうご質問が来ました。
現在、銀行が日銀から準備預金を借りる金利は0.3%ですが、インターバンク市場ではマイナス金利で調達できます。日銀の決算書を見ると日銀貸出の残高が34兆円位あります。なぜ銀行は市場で借りて日銀に返済しないのでしょうか?そもそも超過準備がこんなに溢れているときに、誰が日銀から借りているのでしょうか?
Twitterでは書き切れませんので、こちらで回答いたします。
民間銀行が日本銀行から借入する場合、補完貸付制度だけでなく金融政策の一環としての様々な貸出制度があります。
代表的なのは、こちらです。貸出支援基金ですね。
こちらの制度融資の目的はこちらです(日本銀行ホームページから引用)。
物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する観点から、金融緩和効果を一段と浸透させるための措置として、バランスシート上に基金を創設し、わが国経済の成長基盤強化および貸出増加に向けた民間金融機関による取り組みを支援するため、適格担保を担保とする資金供給を実施
こちらの適用金利は現在、ゼロパーセントで、残高は2017年3月で37兆円ありますね*1。
確かに、ご質問のとおり、短期金融市場ではマイナスで調達できますが、この制度のように長期ではマイナス金利では借りられません。
そこで、この貸出支援基金の融資を利用して、民間銀行は日本銀行から資金を借り入れているわけですね。
なお、補完貸付制度(0.3%)は、民間銀行が資金繰りに窮し、0.3%という市場レートからみるとかなり高めの金利でも借りなければならないという場合の利用が想定されており、平常時では使用されておりません。
補完貸付制度は、積み期間(1カ月)に5営業日までしか0.3%で利用できず、それを超えるとさらに高めのペナルティ金利が課されますね。
ということで、お題への回答といたします。
権力の源泉としての秘密による支配の持続可能性ついて。
人の知らない秘密を自分だけが知っている。
そのことは権力の源泉となります。
新しい仕事に取り組む時、全体像を知っているのはいちばん上の上司だけで、スタッフには情報を小出しにして決して全体を見せない。
意図して、こういう方法を採る管理職が散見されます。
こうなると、スタッフは全体が見えませんから、進捗のどの部分をやっているのかわからず、ただ上司に言われたことだけをこなすだけになります。
いわば、秘密の情報により、部下をコントロール(支配)しているという状態になるわけです。
もちろん、秘密保持が重要な性質の仕事もありますから、これもマネジメントの一つの方法であり、全面的に否定されるものではありません。
しかし、日常の仕事でも、年次単位で繰り返される仕事でも、秘密保持義務が解除された後でも、この方法を採る管理者が散見されます。
上司が、スタッフの仕事の細部まで精通しており、仕事の全体像を見せないことによる影響を勘案してうえで、矛盾や漏れのない完璧な指示を下せるというのなら、この方法も維持できるでしょう。
しかし、これだけ分業化・専門化が進んでいる今日の企業組織において、そんなことは不可能です。
さらには、上司の言うがままに、いったいどの部分をやっているか理解できずに仕事をさせられていたら、スタッフはただの作業員と化し改善や効率化のモチベーションなど起きるはずもなく。
ただ一人の全能の上司がすべての情報を握り、計画経済のように指令を下す。
それよりも、秘密保持の部分は残しつつ、全体をスタッフに開示して、みんなのアイデアを取り入れる。
持続可能性が疑わしい、権力の源泉としての秘密を利用するより、衆知を集めた方がみんなが生き延びられるのではないか。
そんなことを感じております。