メルカリのポイント、消費税処理のちょっと難しいお話。
新規上場で話題のメルカリの消費税処理について、こんな報道が出ていました。
www.sankei.com
国税当局との見解の相違が起きたのは、メルカリが利用者に向けて発行するポイントに関する消費税の処理方法についてです。
よく期間限定で500ポイントプレゼント!などという通知がきてますね。
メルカリポイントは、1ポイント1円として商品購入に使えます。
会計上、メルカリはポイントを販売促進費として費用計上してます。
問題は、税務処理についてです。
消費税は、売上(収益)にかかる消費税から、仕入(費用)にかかる消費税を差し引き、その差額分だけを納付することが義務付けされています。
例示しますと・・顧客が10,000円の商品を売却すると、メルカリはその10%の1,000円を手数料として売上げ計上します(税込)。
売上にかかる消費税は、1000÷108×8=74円です。
この際に、購入者が500ポイントを支払の一部としてあてたとすると、メルカリは500円を販売促進費として計上します。
メルカリ側は、これを消費税法上の「課税仕入れ」と判断し、500÷108×8=37円の仕入税額控除をとっていました。
仕訳で表すと、次のようになります。
(借方)未収金 9,500 (貸方)未払金 9,000
(借方)販売促進費 463 (貸方)売上 926
(借方)仮払消費税 37 (貸方)仮受消費税 74
この税務処理方法によると、納税額は74円-37円で、差額の37円を納付することになります。
しかし、国税側はポイントについて、消費税法上の「課税仕入れ」には該当しないとして仕入税額控除を否認したもようです。
この場合、国税側の論拠は、「ポイントの原始発行は、課税取引の要件である「資産の譲渡等」に該当しないので課税仕入にはならない」というものであると考えられます。
私としても、条文解釈として、課税仕入れは、課税売上と「鏡」になっているので、明確な対価性がないポイントの原始発行は課税仕入れには当たらないと考えます。
メルカリ側がどういう論拠でこれを課税仕入れに当たると考えたのかは報道やメルカリのプレスリリースではわかりません。
about.mercari.com
メルカリ側、更正処分を受け、修正申告には応じていないようですからひょっとすると裁判に訴えようと考えているのかしれません。
注目したいと思います。
記者が課税仕入れの仕組みをよく理解していなかったのか、最初の記事では意味不明でしたが、今は少し修正されているようですね。
超初心者でもわかる消費税の入門書は、こちらをどうぞ。
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すらすらわかる朝日新聞の決算と今後のゆくえ。(速報版)
朝日新聞は上場企業ではありませんから、関連会社である上場企業、テレビ朝日HDが「親会社等の決算に関するお知らせ」という形での開示となります。
http://www.tv-asahihd.co.jp/contents/press/2018/asahishinbun3003.pdf
こちらです。
朝日新聞、売上は3,839億円、3%弱の減少。でも最終利益は120億円と35%増益になっています。
ここでは、本業の収益力を示す営業利益に着目してみます。
営業利益は、78億円(+12%)の増益です。
営業利益の増加は、本業の効率化により達成されたものでありません。
朝日新聞、2017年7月に退職給付制度を改定しており、これにより退職給付債務が355億円、減少しております。
退職給付債務の減少ということは、会社からみて負債の減少、従業員からみると退職金の切り下げです。
EDINETで開示されている朝日新聞の半期報告書から引用します。
(追加情報)
当社は、平成29年7月11日に退職金規定の改訂を行った。
これに伴い、退職給付債務が35,532百万円減少する。この退職給付債務の減少は過去勤務費用に該当するため、当社の定める会計方針に従い、5年間にわたり定額法により費用の減額として計上する。
朝日新聞の会計方針では、過去勤務費用は、発生した年度から5年で償却されます。
負債減少ですので、会計上は販間費に含まれる人件費の減少。
7月からの制度改正ですので2018年3月期には、355÷5×9÷12でざっくり50億円の人件費減少として計上されていると推計されます。
さて、2018年の営業利益は78億円でした。このうち、50億円が制度改定による人件費減少効果ですね。
本業では、ほとんど営業利益が出せていないということが読み取れます。
次に、セグメント分析を行ってみます。
朝日新聞、所有する都内の一等地からの安定した賃貸収入が出ており、新聞などのメディアセグメントに次いで売上げが大きいのが不動産セグメントですね。
開示された短信ではセグメント情報は載っていません。
昨年度、2017年3月期の有価証券報告書では、営業利益70億円のセグメント別内訳として、メディア16億円、不動産49億円、その他5億円と開示されています。
今般の退職給付制度改定では、従業員の割合に応じて営業利益の改善効果があるものと考えられます。
セグメント人員は、メディアセグメントが8割、不動産、その他が10%づつです。
先ほど書きました、50億の営業利益改善効果は、8割40億円がメディアセグメントへ帰属することに。
一方、不動産セグメントは大きな不動産の異動は無いようですので、昨年度同レベルの営業利益を確保できているものと推測されます。
これらから、まだ開示されていない2018年度のセグメント別営業利益を推計してみました。
2017年3月期 | 2018年3月期 | |
---|---|---|
メディア | 16 | 15 |
不動産 | 49 | 54 |
その他 | 5 | 9 |
営業利益計 | 70 | 78 |
2018年3月期は推測です(金額は億円)。メディア事業は、退職金切り下げによる40億円費用削減効果があっても営業利益は横ばい。制度改定効果を控除すると、25億円程度の赤字ではないかと推測されます。
いよいよ、新聞業では利益が確保できなくなっているようですね。
では、次に朝日新聞はこのままズルズルと部数を減らして経営が成り立たなくなるのか・・ということです。
それは、朝日新聞の経営破綻は、次の理由により考えにくいです。
不動産賃貸業で約50億円の営業利益を安定して確保できていること。
持分法関連会社からの利益が約60億円もあること(うちテレビ朝日が40億円)
過去の利益剰余金、いわゆる内部留保が約3200億円もあること。
有価証券の含み益が1400億円もあること(いずれも2018年3月期)。
まだまだ退職金切り下げなど従業員の処遇を下げる余地があること。
というところでしょうか。
こちらは公開されている財務報告から一定の仮定を置いて推測したものです。
いっさいの投資判断の助言を行うものではなく、推測の正確性は保証できません。
答え合わせは、6月末の有価証券報告書開示を待ちたいと思います。
会計の数字から何がわかるか?をやさしく解説してくれるお話。
本日のお題はこちら。
やっぱり会計士は見た! 本当に優良な会社を見抜く方法 (文春e-book)
- 作者: 前川修満
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2018/02/13
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「会計士は見た!」に続きまして、一般には馴染みがない財務諸表の読み方をわかりやすく解説してくれる一冊です。
前作は、東芝の不正会計が騒がれている時期でして、キャッシュ・フロー計算書の読み方が中心でした。
今回は、一部の界隈で「大好き」という文脈で語られている喫茶店、銀座ルノアールとドトールコーヒーの比較から始まります。
企業が利益を確保していくために大事な点は二つ。
利益率を高くしていくこと。
回転を早くしていくこと。
この2つです。
ルノアールのコーヒーは1杯590円。
ドトールは220円です。
コーヒーの1杯あたりの原価(材料費)は50円程度と推測されますので、ルノアールは1杯売ると500円以上の粗利(売上総利益)を得られます。
ドトールは150円です。
割合に直しますと、ルノアールは9割弱、ドトールは7割くらいですね。
これだけですと、ルノアールの方が「儲かっている」ようにみえますね。
でも、ルノアールはゆっくり座って寛ぎながら、最低、1時間はいるでしょう。
ドトールは椅子も固いし、長居はしづらいので早々と席を立ってしまう。
ルノアールは、「回転が遅い」わけですね。
粗利と回転率を合わせると、最終的な利益率は、ドトールの方が高めになっております。
通常の会計のテキストでは、粗利×回転率=利益率からなるとい説明は次のようになります。
まずはROE(株主本利益率)が出てきて、これを売上高利益率と総資産回転率に分解して・・というように続きます。
会計に馴染みのない一般の方では、この時点で意味が理解できなくて挫折してしまう。
でも、本書ではROEの分解(デュポン公式*1)がでてくるのはかなり後の方です。
みんながよく知っているルノアールとドトールという実際の企業の財務諸表を使って、会計数字からビジネスの実際が理解できるようになる、という、読者の興味をうまく引き付けて読ませる1冊になっております。
本書、これだけではなく、イオンのスーパー事業の低迷、日本郵政によるM&A失敗、ZOZOTOWNの高収益性、ソフトバンクの活発な投資活動など、昨今の会計に関するトピックを面白く解説してくれております。
前川先生、本書を最後に残念ながらお亡くなりにました。
会計をめぐる話題を興味深く語れる方であっただけに残念です。
ご冥福をお祈りいたします。
こちらも合わせて、ぜひ。
「教科書が読めない人々」の運命について。
本日のお題はこちら。
- 作者: 新井紀子
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
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「ロボットは東大に入れるか」と名づけた人工知能プロジェクトを主催している数学者・新井紀子先生による一冊です。
プロジェクトが開発した人工知能「東ロボくん」はどんどん進歩していきますが、現在のところ東京大学に入れるだけの「学力」(知能?)を備えてはいません。
でも、MARCHと呼ばれる有力私大には入れるくらいにはなっている、と。
このまま進歩していけば、いつかは東大に入れるくらいのレベルにはなれるでしょうか?
新井先生は「ならない」との結論を出しています。
結論的なことだけを言いますと、次のようになります。
「人工知能AIは、英単語を暗記したり年表を記憶したりするのは得意だが、教科書の文章を読み取って意味や文脈を理解することは苦手・・というか原理的に不可能*1」
人工知能の特徴=得意とする手法は、暗記学習ばかりしている中高生が得意なことに似ていると続きます。
ちゃんと教科書を読んで理解しなくとも、パターン暗記やキーワードの反射的なアウトプットである程度の成績は達成できてしまう、ということですね。
さて、東ロボくんとはまた別の話に代わります。
新井先生らは、大学生の文章読解力の惨憺たる状況に驚きます。
その原因を探るため、中高生を対象として、基礎的な文章読解力を調べるため大規模なリーディングスキルテストというものを実施します。2万5千人以上がテストを受けたとのこと。
www.nippon.com
詳しくはリンク先をお読みいただきたいのですが、中高生の3割以上が教科書の文章の意味を理解できていないという衝撃の結果がでます。
教科書に書いてある文章が読んで理解することができなければ、先に挙げたような人工知能が得意とする反射的な「学力」は付けられるものの、それ以上にはいかない、ということです。
このまま人工知能が進歩していけば、いずれ、そういう「教科書が読めない」人々は失業せざるを得ない・・という危機感を表明しております。
人工知能である種類の仕事が失われても、「人間しかできない」仕事が新たに生まれるという楽観的な見通しもよく聞かれますが、人工知能が既存の仕事を奪っていくスピードは、過去の産業革命のときとは比べようもなく早い、と。
ここからは私の感想になります。
職業に必要なものは学力だけではありませんので、人工知能に代替されるようなホワイトカラー事務職がしている単純・反復的な仕事は消えるものの、そんなに悲観的にならなくても・・とも思います。
ただ、人間しかできない仕事というものは多くは飲食店などのサービス、介護や保育など低賃金のものばかりです。
または、高度な才能や技能、長い訓練を必要とする専門業の一部だけであり、これは普通の人には現在でも無理でしょう。
そうなると、一部の「人間しかできない」仕事をする人々が社会が生み出す富を独占し、大多数の「人間しかできない」仕事をする普通の人々は最低賃金レベルの生活を強いられる・・その分かれ目は「教科書が読めない」だけではないにしても、多くはそこで区切られてしまうことに。
そういう暗い未来がやってこないようにするために、新井先生は本書中でいろいろ提言しております。
この続きは、ぜひ本書をお読みいただければと思います。
「マンガでわかる統計学入門」のおすすめ。
- 作者: 滝川好夫
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統計のスキルを身につけたいというニーズは多くの人に共有されていると思いますが。
統計学入門というテキストを買ってはみたけど、読めない記号で書かれた数式がドーンと出てきて、解き方も展開してくれるわけじゃなく、あえなく挫折・・
あるいは、統計を使った歴史上とかビジネス上のエピソードがずらずら出てきて、「統計って役に立つんだ!」と面白い読み物であるものの、さっぱり自分で使えるスキルは身につかない・・
こんなところでしょうか。
・・私もです。
さて、本書は「マンガでわかる」です。
数式の展開は文章で説明してくれて、分散も標準偏差も相関係数も自分で計算できるようになります。
文章だけではなく、マンガ部分でキャラクターがグラフや式を図式しながら繰り返して説明してくれるのでわかりやすい!
これなら、挫折しないで読み通せるのではないでしょうか。
マンガで入り口と基礎がわかったら、あとは少しづつ自分に合ったテキストを探して、深めていけばよいかと思います。
統計学の学習に何度も挫折した方でも、ぜひ。
金融に対する「常識」という無理解について。
先日発売された落合陽一氏の新著「日本再興戦略」のこの一節が引用され、金融界隈の間で話題になっておりました。
- 作者: 落合陽一
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ゼロサムでトレードを生業とする金融の人が社会にもたらす貢献は、適正な金融商品が適正な価格になるお手伝いをしていることだけで、それ以外は何もありません。そうしたアービトラージ(裁定取引)もコンピュータがやってくれるようになったら、ますます価値がなくなってしまいます
金融商品の売買がゼロサムゲームというのは、誰かの利益=誰かの損失でしか構成されていない、何も価値を生んでいないということを言っているのかもしれません。
教科書的な説明では、株式を発行する企業が事業を行って生み出す将来キャッシュ・フローの割引現在価値が株式の価値となります。
市場に参加する人々は、それが割高なのか、割安なのか、それぞれ持つ情報に基づいて売り買いしています。
それぞれ評価が異なるので、売買が成立するのであって、丁半博打のように誰かが利益を出せば誰かが損失を出すというものではありません。
金融機関は、売買を仲介して取引費用を節約したり、情報を提供して情報の非対称性を緩和したりするわけで、不完全市場では達成されない金融取引による交換の利益を増やすという社会への付加価値の提供を行っています。
次に、文章の後半ですが、企業が開示する情報が瞬時に市場参加者にいきわたり、それが素早く価格に反映されるので、今日の金融市場では、裁定取引の機会はほぼ存在し得ないということは広く合意されています。
これはちょっと前に話題になった電子的な高頻度取引のことをイメージして発言しているのかもしれませんが。
金融取引のうち、一部の事象を切り取って「無価値だ」と断じる言説は社会に広く流布しています。
一つの社会通念、常識になっているのかもしれません。
現代の魔法使い、と呼ばれる若き天才、落合陽一氏でも金融に対する認識はこういう感じなんだな、ということで、少し残念に思いました。
金融の機能と役割について、わかりやすく解説した教科書はいろいろ出ています。
- 作者: 村瀬英彰
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「やらかした」人の処遇が形成する空気について。
営業現場で顧客とトラブルを起こしたり、案件をぜんぜん捌ききれなくて業務が滞ってしまったり。
あるいは、上司や同僚と感情的な軋轢を起こしてしまったり。
若くして、「やらかしてしまう」人はどこの職場にもいるのでしょう。
自ら辞職しない限り、その程度の「やらかし」では会社側から解雇するようなことはなかなかありません。
なので、そういう人は営業現場を離れて、本社の管理部門に人事異動してきます。
会社により異なるでしょうが、「あそこは左遷部署だ」というところがなんとなく社内の認識として合意されている・・
ところが、管理部門には管理部門の仕事があって、締切がありますし成果物の精度も一定水準のものが求められる。
さらには、「やらかし君」が苦手とする対人折衝の能力も当然に必要なのです。
でも、偉い人も、人事部門も、管理部門の仕事の大切さなど理解しておりませんから、営業現場で「使えない」奴は本部で事務でもしていろ、というあからさまな人事慣行が成立している。
その慣行が、営業現場は偉い・管理部門は一段下という空気が社内に淀む。
営業現場も管理部門の両方が存在しないと組織は成り立たないし、上下関係などない、というのが偉い人の建て前なのですが・・左遷部署が存在するのは厳然たる事実でもあります。
いちばん、「やらかしている」のは、そんな空気を形成してしまう人事慣行を変えられない偉い人と、人事部門なのかもしれません。