すらすら日記。

すらすら☆

会計の数字から何がわかるか?をやさしく解説してくれるお話。

本日のお題はこちら。

「会計士は見た!」に続きまして、一般には馴染みがない財務諸表の読み方をわかりやすく解説してくれる一冊です。
前作は、東芝の不正会計が騒がれている時期でして、キャッシュ・フロー計算書の読み方が中心でした。
今回は、一部の界隈で「大好き」という文脈で語られている喫茶店、銀座ルノアールドトールコーヒーの比較から始まります。

企業が利益を確保していくために大事な点は二つ。

利益率を高くしていくこと。

回転を早くしていくこと。

この2つです。
ルノアールのコーヒーは1杯590円。
ドトールは220円です。

コーヒーの1杯あたりの原価(材料費)は50円程度と推測されますので、ルノアールは1杯売ると500円以上の粗利(売上総利益)を得られます。
ドトールは150円です。
割合に直しますと、ルノアールは9割弱、ドトールは7割くらいですね。

これだけですと、ルノアールの方が「儲かっている」ようにみえますね。
でも、ルノアールはゆっくり座って寛ぎながら、最低、1時間はいるでしょう。
ドトールは椅子も固いし、長居はしづらいので早々と席を立ってしまう。
ルノアールは、「回転が遅い」わけですね。

粗利と回転率を合わせると、最終的な利益率は、ドトールの方が高めになっております。

通常の会計のテキストでは、粗利×回転率=利益率からなるとい説明は次のようになります。

まずはROE(株主本利益率)が出てきて、これを売上高利益率と総資産回転率に分解して・・というように続きます。

会計に馴染みのない一般の方では、この時点で意味が理解できなくて挫折してしまう。

でも、本書ではROEの分解(デュポン公式*1)がでてくるのはかなり後の方です。

みんながよく知っているルノアールドトールという実際の企業の財務諸表を使って、会計数字からビジネスの実際が理解できるようになる、という、読者の興味をうまく引き付けて読ませる1冊になっております。

本書、これだけではなく、イオンのスーパー事業の低迷、日本郵政によるM&A失敗、ZOZOTOWNの高収益性、ソフトバンクの活発な投資活動など、昨今の会計に関するトピックを面白く解説してくれております。

前川先生、本書を最後に残念ながらお亡くなりにました。
会計をめぐる話題を興味深く語れる方であっただけに残念です。

ご冥福をお祈りいたします。

sura-taro.hatenablog.com

こちらも合わせて、ぜひ。


*1:正しくは、ROE=売上高利益率×総資産回転率×財務レバレッジになります。話が複雑になるためか財務レバレッジに関しては本書では少しだけ後の記述で捕捉されています。

「教科書が読めない人々」の運命について。

本日のお題はこちら。

AI vs. 教科書が読めない子どもたち

AI vs. 教科書が読めない子どもたち

「ロボットは東大に入れるか」と名づけた人工知能プロジェクトを主催している数学者・新井紀子先生による一冊です。

プロジェクトが開発した人工知能「東ロボくん」はどんどん進歩していきますが、現在のところ東京大学に入れるだけの「学力」(知能?)を備えてはいません。
でも、MARCHと呼ばれる有力私大には入れるくらいにはなっている、と。

このまま進歩していけば、いつかは東大に入れるくらいのレベルにはなれるでしょうか?

新井先生は「ならない」との結論を出しています。

結論的なことだけを言いますと、次のようになります。

人工知能AIは、英単語を暗記したり年表を記憶したりするのは得意だが、教科書の文章を読み取って意味や文脈を理解することは苦手・・というか原理的に不可能*1

人工知能の特徴=得意とする手法は、暗記学習ばかりしている中高生が得意なことに似ていると続きます。

ちゃんと教科書を読んで理解しなくとも、パターン暗記やキーワードの反射的なアウトプットである程度の成績は達成できてしまう、ということですね。

さて、東ロボくんとはまた別の話に代わります。

新井先生らは、大学生の文章読解力の惨憺たる状況に驚きます。
その原因を探るため、中高生を対象として、基礎的な文章読解力を調べるため大規模なリーディングスキルテストというものを実施します。2万5千人以上がテストを受けたとのこと。
www.nippon.com
詳しくはリンク先をお読みいただきたいのですが、中高生の3割以上が教科書の文章の意味を理解できていないという衝撃の結果がでます。

教科書に書いてある文章が読んで理解することができなければ、先に挙げたような人工知能が得意とする反射的な「学力」は付けられるものの、それ以上にはいかない、ということです。

このまま人工知能が進歩していけば、いずれ、そういう「教科書が読めない」人々は失業せざるを得ない・・という危機感を表明しております。

人工知能である種類の仕事が失われても、「人間しかできない」仕事が新たに生まれるという楽観的な見通しもよく聞かれますが、人工知能が既存の仕事を奪っていくスピードは、過去の産業革命のときとは比べようもなく早い、と。

ここからは私の感想になります。

職業に必要なものは学力だけではありませんので、人工知能に代替されるようなホワイトカラー事務職がしている単純・反復的な仕事は消えるものの、そんなに悲観的にならなくても・・とも思います。
ただ、人間しかできない仕事というものは多くは飲食店などのサービス、介護や保育など低賃金のものばかりです。
または、高度な才能や技能、長い訓練を必要とする専門業の一部だけであり、これは普通の人には現在でも無理でしょう。

そうなると、一部の「人間しかできない」仕事をする人々が社会が生み出す富を独占し、大多数の「人間しかできない」仕事をする普通の人々は最低賃金レベルの生活を強いられる・・その分かれ目は「教科書が読めない」だけではないにしても、多くはそこで区切られてしまうことに。

そういう暗い未来がやってこないようにするために、新井先生は本書中でいろいろ提言しております。

この続きは、ぜひ本書をお読みいただければと思います。



*1:そもそも人工知能は意味を理解してはいない、反復した試行錯誤やあてはめなどを高速で行っているだけだと説明されます。詳しくは本書をお読みください。

「マンガでわかる統計学入門」のおすすめ。

マンガでわかる統計学入門

マンガでわかる統計学入門

統計のスキルを身につけたいというニーズは多くの人に共有されていると思いますが。

統計学入門というテキストを買ってはみたけど、読めない記号で書かれた数式がドーンと出てきて、解き方も展開してくれるわけじゃなく、あえなく挫折・・

あるいは、統計を使った歴史上とかビジネス上のエピソードがずらずら出てきて、「統計って役に立つんだ!」と面白い読み物であるものの、さっぱり自分で使えるスキルは身につかない・・

こんなところでしょうか。

・・私もです。

さて、本書は「マンガでわかる」です。

数式の展開は文章で説明してくれて、分散も標準偏差相関係数も自分で計算できるようになります。
文章だけではなく、マンガ部分でキャラクターがグラフや式を図式しながら繰り返して説明してくれるのでわかりやすい!

これなら、挫折しないで読み通せるのではないでしょうか。

マンガで入り口と基礎がわかったら、あとは少しづつ自分に合ったテキストを探して、深めていけばよいかと思います。

統計学の学習に何度も挫折した方でも、ぜひ。

金融に対する「常識」という無理解について。

先日発売された落合陽一氏の新著「日本再興戦略」のこの一節が引用され、金融界隈の間で話題になっておりました。

日本再興戦略 (NewsPicks Book)

日本再興戦略 (NewsPicks Book)

ゼロサムでトレードを生業とする金融の人が社会にもたらす貢献は、適正な金融商品が適正な価格になるお手伝いをしていることだけで、それ以外は何もありません。そうしたアービトラージ裁定取引)もコンピュータがやってくれるようになったら、ますます価値がなくなってしまいます

金融商品の売買がゼロサムゲームというのは、誰かの利益=誰かの損失でしか構成されていない、何も価値を生んでいないということを言っているのかもしれません。

教科書的な説明では、株式を発行する企業が事業を行って生み出す将来キャッシュ・フローの割引現在価値が株式の価値となります。
市場に参加する人々は、それが割高なのか、割安なのか、それぞれ持つ情報に基づいて売り買いしています。
それぞれ評価が異なるので、売買が成立するのであって、丁半博打のように誰かが利益を出せば誰かが損失を出すというものではありません。
金融機関は、売買を仲介して取引費用を節約したり、情報を提供して情報の非対称性を緩和したりするわけで、不完全市場では達成されない金融取引による交換の利益を増やすという社会への付加価値の提供を行っています。

次に、文章の後半ですが、企業が開示する情報が瞬時に市場参加者にいきわたり、それが素早く価格に反映されるので、今日の金融市場では、裁定取引の機会はほぼ存在し得ないということは広く合意されています。
これはちょっと前に話題になった電子的な高頻度取引のことをイメージして発言しているのかもしれませんが。

金融取引のうち、一部の事象を切り取って「無価値だ」と断じる言説は社会に広く流布しています。
一つの社会通念、常識になっているのかもしれません。

現代の魔法使い、と呼ばれる若き天才、落合陽一氏でも金融に対する認識はこういう感じなんだな、ということで、少し残念に思いました。
金融の機能と役割について、わかりやすく解説した教科書はいろいろ出ています。

金融論 新エコノミクス

金融論 新エコノミクス

「常識」という先入観で無理解のまま終わることなく、こちらなども手にして、少し誤解を解いて欲しいように思います。




「やらかした」人の処遇が形成する空気について。

営業現場で顧客とトラブルを起こしたり、案件をぜんぜん捌ききれなくて業務が滞ってしまったり。

あるいは、上司や同僚と感情的な軋轢を起こしてしまったり。

若くして、「やらかしてしまう」人はどこの職場にもいるのでしょう。

自ら辞職しない限り、その程度の「やらかし」では会社側から解雇するようなことはなかなかありません。

なので、そういう人は営業現場を離れて、本社の管理部門に人事異動してきます。

会社により異なるでしょうが、「あそこは左遷部署だ」というところがなんとなく社内の認識として合意されている・・

ところが、管理部門には管理部門の仕事があって、締切がありますし成果物の精度も一定水準のものが求められる。

さらには、「やらかし君」が苦手とする対人折衝の能力も当然に必要なのです。

でも、偉い人も、人事部門も、管理部門の仕事の大切さなど理解しておりませんから、営業現場で「使えない」奴は本部で事務でもしていろ、というあからさまな人事慣行が成立している。

その慣行が、営業現場は偉い・管理部門は一段下という空気が社内に淀む。

営業現場も管理部門の両方が存在しないと組織は成り立たないし、上下関係などない、というのが偉い人の建て前なのですが・・左遷部署が存在するのは厳然たる事実でもあります。

いちばん、「やらかしている」のは、そんな空気を形成してしまう人事慣行を変えられない偉い人と、人事部門なのかもしれません。


数式なしでファイナンスを理解!という罠の次へ。

本日のお題はこちら。

面白そうだけど難しい、仕事で必要があるけどいきなり難しい教科書は無理・・という人に向けた初学者のニーズは大きく、世にはいろいろな種類な入門書が売られています。

ファイナンス財務会計や経済学と並んで、いつも「学びたい分野」の上位に挙げられております。
本書も、そういう入門者向けの1冊でしょうか。

ファイナンス理論全史」という大仰なタイトルが付いていますが、これは編集が選択したものでしょう。
実際には300ページ弱の単行本で「全史」を書ききるなどというのは不可能で、本書はファイナンス理論の歴史と、それを作り上げてきた人々についても短い物語、といった読み物ですね。

ファイナンスを学ぶ初心者に壁となる数式は全く出てきません。

「数式なしでファイナンスを理解!」
「簿記知識不要で会計の本質を掴む!」
「数学なしで経済学の考え方をマスターする!」

こういうコンセプトの入門書は多数ありますし、実際に売れているのでしょう、次々と新しいものが投入されてきます。
確かに、こういう易しい本は最初のとっかかりとして役立ちますしなんとなく理解できたような感覚にもなります。

でも、こういう「配慮された入門書」だけを読んでも最終的には本当のところでは本質をつかめないようにも思います。

「数式なしでわかります!」という初学者を誘う罠にハマってファイナンスの面白さに気づいたら、やはり分厚い教科書に取り組んで、一度は電卓を叩いてエクセルに自分で数字を入れて「動かして体験してみる」ことで理解が進むのではないかと思います。

以前、ご紹介した「企業価値の神秘」の宮川先生のゼミではこちらが使われているそうです。
罠にハマったその次には、こちらもどうぞ。

コーポレート・ファイナンス 第10版 上

コーポレート・ファイナンス 第10版 上

  • 作者: リチャード・A・ブリーリー,スチュワート・C・マイヤーズ,フランクリン・アレン,藤井眞理子,國枝繁樹
  • 出版社/メーカー: 日経BP
  • 発売日: 2014/06/20
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る
本書、上巻だけで800ページもありますが、数式も噛み砕いてその意味を説明してくれますし章末にはエクセルを使う簡単な練習問題も付いていますので初心者の独学でもイケるかと。

私も、少しづつですが、勉強を進めております。

京都銀行の政策投資株式の凄まじさについて。

地方銀行は、地元の企業の株式を長期的な取引関係を維持構築するために保有しています。

いわゆる、政策投資株式というものですね。

京都には、任天堂日本電産、京セラ、村田製作所オムロンなど京都発の世界的優良上場企業が多数あり、京都銀行はその株式を大量に保有しています。

京都銀行は、それら優良企業の株を上場する前から保有していたものと推測されます。

その帳簿上の取得原価は、せいぜい1株当たり100円か200円とかにしかならないものと推測されます(取得原価は公開されていません)。

今の会計ルールでは、政策投資株式は「その他有価証券」に分類され、時価評価されます。

時価評価差額は、損益計算には反映されませんが、税効果相当部分を除いた含み益(約70%部分)が純資産の部に計上されることになります。

有価証券報告書から抜粋した、上位5先の株式の株式数、時価、見込配当額をあげておきます。

  銘柄名   株数  時価(2月23日)   年間配当金
任天堂   588万株  2,840億円  29億円
日本電産  1,239万株  2,085億円  12億円
京セラ  1,443万株   893億円  17億円
村田製作所  526万株   780億円  14億円
オムロン  706万株   448億円   5億円

 

京都銀行(単体)の年間の有価証券利息配当金は250億円程度です。

この上位の5社だけで、年間70億円程度の配当金を得られることとなります。

含み益も数千億円になるでしょう。

昨今、コーポレート・ガバナンス改革が叫ばれ、政策投資株式については、有価証券報告書でその保有目的を詳しく説明するように義務付けられました。

意味のない持合株式は資本効率を損ねる、経営者の自己保身だ、不透明な取引慣行だ・・と散々な叩かれようです。

京都銀行有価証券報告書保有目的は全銘柄同じ。

 

「総合的な取引関係の維持・拡大と長期的な関係強化」

 

これだけです。

何も言っていないと同じですが・・上記の巨額の含み益と配当収入をみれば、どんな投資家も黙るのではないかと。

同じ地銀でも、地場に優良企業が存在しないところでは、政策投資株式を持っていても含み益どころか減損処理・減配などなにもいいことがありません。

また、各地の地銀の保有株式の状況を調べてみたいと思います。

 

 

ガバナンス革命の新たなロードマップ―2つのコードの高度化による企業価値向上の実現

ガバナンス革命の新たなロードマップ―2つのコードの高度化による企業価値向上の実現

 

 最近、ガバナンス周りの本からは離れていますが、また新しいテキストも出ているようです。読んでみたいと思います。

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