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銀行のキャッシュ・フロー計算書を読む。(その2 投資CF編。)

営業CFがマイナスだった場合、それをどこからか「借りてこなければならない」というお話をしました。
投資キャッシュ・フローと財務キャッシュ・フローからですね。
例外的に、営業CF・投資CF・財務CFがすべてマイナスであっても、ごく短期的になら手元の現金取崩で耐えられますが、手許現金が枯渇し、弁済期にある債務を履行できなくなると「倒産」ということになります。
現金が尽きて倒産するのは、事業法人であっても銀行でも同じですね。

www.mufg.jp


さて、27年3月期の三菱UFJFGの営業CFは2兆円のマイナスでした。これは「本業で現金を稼げていない」ということを表しているのでは「ない」ということは前回ご説明した通りです。
しかし、投資CFの合計に目を向けますと、6兆円のプラス(現金収入の増加)となっています。事業法人の投資CFでいちばん大きいのは、工場設備の新設・更改やソフトウェア投資など、企業の成長を目指しての投資活動ですが、銀行業のそれは有価証券の売買・償還が大部分を占めています。
銀行は国債・地方債・社債、株式、証券投資信託不動産投資信託など大量の有価証券投資を行っています。有価証券投資は、利息配当金を受け取ることを目的としていますが、株価や金利などの金融市場の変動を狙ってタイミングよく売買することで、有価証券売却益をあげることも大きな目的になっています。
三菱UFJFGのバランスシートには、約73兆円の有価証券が載っています。これはあくまで期末日現在の残高であり、投資CFの内訳を見ますと、27年3月期1年間で、有価証券の取得で138兆円の現金支出、有価証券を売却により110兆円の現金収入、償還で34兆円の現金収入があったことが読み取れます。

これはあくまで有価証券元本に伴う現金の異動だけを示しており、売却損益は営業CFの中に含められています。中ほどに、「有価証券関係損益(△) 2,082億円」という数字が見つけられると思います。これが、株式等売却益・損、償却、国債等債券売却益・損、償却をネットしたもので、△ですので、年間では株式・債券等の売却で2,082億円の益が出ていることになります。

この△2,082億円は、営業CFに「含められている」という意味ではありません。有価証券関係の会計上の損益が税金等調整前当期純利益に含まれているため、キャッシュ・フローを投資CFへ振り分けるため、営業CFから「控除」していることと理解してください。益(現金の流入)であるのにもかかわらず、△表示で示されているのは、税金等調整前当期純利益から控除しているということを表しています。


これを仕訳で表しますと、次のようになります。

購入 (借方)有価証券 130兆円/(貸方)現金 130兆円
売却 (借方)現金   110兆2,082億円/(貸方)有価証券 110兆円
償還 (借方)現金   34兆円/(貸方)有価証券 34兆円*1


この仕訳を通算しますと、△138兆円+110兆円+34兆円=6兆円の現金増加となりますね。

この他に、金銭の信託の増減では1,000億円ほどの現金収入、有形固定資産・無形固定資産への設備投資で約4,000億円の現金支出がありますが、有価証券の売買に伴うものに比べると文字通り桁違いの少額となります。
投資CFは、ほぼ、有価証券の売買・償還で説明できてしまうことが理解できるでしょう。

期末残高73兆円に比べると、売買が138兆円取得・110兆円売却非常に多額である、との印象を受けるかもしれません。
これは、期首に保有していた有価証券を全額売却し、銘柄を入れ替えたことを示しているのではないと考えられます。
利息収入を安定的に得るために長期で持ち切りしている債券や、政策投資株式として長期に保有している株式もあれば、次の運用先まで「繋ぎ」として短期間だけ保有し、売却・償還されてしまう短期債券、マーケット動向を見ながら機動的に売買される投資信託など、様々な投資行動を行った結果、このような動きになったものと思われます。*2



また、有価証券の売買・償還による現金の増減は投資CFに区分されるのに対し、有価証券への投資から得られる利息・配当金は営業CFに含まれているということも留意すべき点になります。
27年3月期の連結損益計算書を参照しますと、「有価証券利息配当金」6,279億円が計上されていますが、これはあくまで発生主義ベースであり、現金の入出金を示すものではありません。
また、有価証券を簿価よりも高く・低く取得した場合、利回りを一定のものとするためにその差額を満期に向かって償却していく簿記会計上の技術であるアモチゼーション・アキュムレーション(償却原価法)も「有価証券利息配当金」に含まれております。
償却原価法による仕訳により有価証券利息が増減しますが、これも現金の入出金を伴うものではないため、営業CFを算出する際には調整が行われております。


なお、近年、市場金利低下による資金運用収益の減少を補うために、相対的に高い利回りが見込める非上場の投資信託へ投資し、これの売却益を「有価証券利息配当金」へ計上する投資行動が行われているとの報道もなされています。
この経理方法は市販本である『銀行経理の実務』にも明記されておりますが、銀行によっては「有価証券利息配当金」を使用せず、「国債等債券売却益」を使用している銀行もあるようです。
また、その場合のキャッシュ・フロー計算書への表示方法も統一された処理方法は存在しません。三菱UFJFGがどちらの方法を採用しているかは、開示資料からは読み取ることはできません。


本日は投資CFの読み方について解説いたしました。
次回は財務CF、そして3つのキャッシュ・フロー(営業CF・投資CF・財務CFと現金及び現金同等物の増減の関係)を説明いたします。


*1:厳密には、有価証券関係損益の中には現金の入出金を伴わない株式等償却・国債等債券償却が含まれていることと、非上場投資信託の売却益を「有価証券利息」に経理することも認められているため、上記の仕訳は正確なものではありません。あくまで、キャッシュ・フロー計算書理解のための便宜的なものであることにご留意ください。

*2:推測であり、キャッシュ・フロー計算書や損益計算書などからは読み取れません、また、連結財務諸表の有価証券関係の注記では、売却したその他有価証券の科目毎の金額が開示されていますが、取得した有価証券の内訳は非開示です。

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