すらすらわかるヤマダ電機の追徴課税のお話。
こんな報道を見かけると、私はいそいそと有価証券報告書などの開示書類を見に行って「どうしてやらかしてしまったか」をあれこれ推測してみるのを趣味にしております。
www.sankei.com
報道によりますと、ヤマダ電機の税務申告の誤りの内容は次のようなものです*1。
ヤマダ電機は中国に設立した子会社に米ドル建てで貸し付けた債権の一部について、決算期末時のレートではなく、貸し付け時のレートで円に換算して税務申告していた。貸し付け時から決算期末までに円安ドル高が進んでおり、この間に生じた約28億円の評価益が計上されていなかった
ヤマダ電機の子会社への貸付の内容を確認してみたいと思います。
連結ベースを中心とする(金融商品取引法に基づく様式である)有価証券報告書では、連結相殺され、注記にも出てこないため、詳細がわかりません。
そこで、計算書類等の単体財務諸表に出てくる「関連当事者注記」を見にいきました。こちら、会社法固有の注記で、子会社と親会社の取引で重要なものがあれば注記されております。
(東証サーバーがメンテ中でリンクが貼れません。後ほど。)
注記をみますと、北京と瀋陽に設立された中国現地法人に、約130億円づつ、260億円の貸付がおこなわれていることがわかります。
こちら、報道によるとドル建てのようです。
この注記だけでは、期末に為替換算されているかは読み取れません。
次に、有価証券報告書の単体、税効果注記を参照します。
www.yamada-denki.jp
29年3月期有価証券報告書112ページですね。繰延税金負債内訳に「為替差益」が13億~26億とあります。
外貨建資産の換算のルールですが・・
企業会計上は、期末時のレートで換算し、発生時との差額を為替差損益として認識します。
1ドル=100円で貸付した子会社向け貸出金が、期末1ドル=110円になっていれば、1ドルあたり10円分の為替差益を認識することになります。
税務上は、少しルールが複雑でして、短期(1年以内)のものは期末の換算替えが強制、長期のものは発生時のレートそのままで計上するか、換算替えするか選択制になります。
税務署長へ届出をすれば換算方法を選べますが、届出をしない場合、長期の外貨金銭債権については法定の換算方法である発生時換算法になります。
期末換算で税務署長へ届出すれば、会計と税務が一致するはずですので、税効果=会計上の資産負債と税務上の資産負債のずれは生じないはずです。
ヤマダ電機は会計監査を受け、適正意見を受けていますので、企業会計上の外貨換算は期末日のレートで換算しているでしょう。差額は為替差益として損益計算書に計上されますね。
これに対し、税効果を認識しているということは、税務上は発生時のレートのまま換算し、申告減算しているものと思われます。
しかし・・先ほど説明しました通り、短期の外貨建て金銭債権については税務上、期末換算が強制されます。
この部分まで、税務上発生時レートで申告してしまったのか、あるいは、過去に税務署長へ長期の外貨建金銭債権まで期末換算で届出しているのにもかかわらず、申告は発生時レートでやってしまったか。
いずれにせよ、悪意はなく、単純なミスと考えられます。
でも、申告を間違うと加算税を取られますし、こんなふうに報道されると私みたいな物好きがノコノコやってきて、あれこれ推測されちゃうことにもなるわけです。
ところで、税務調査にあたる国税局の職員は厳重な守秘義務を負うはずです。
なんで、こうやって報道されてしまうのでしょう。
不思議ですね。
終わり。
*1:40億円申告漏れで6億円追徴だと、税率をかけても計算が合いません。 推測:外貨建金銭債権の換算差益は翌事業年度洗い替えで所得減算になるのですが、報道ではその減算した部分を計算にいれず、加算された金額だけを積み上げているのではないかと。税効果の加算一時差異の数字ともなんとなく合います。この辺りは推測の推測ですし、あまりに専門的なのでブログ記事本文には書きませんでした。 マスコミの報道姿勢の「癖」として、申告漏れの金額は大きい方が注目されますので、こういう集計の仕方をしたのではないかと。(空想です
無理な残業削減による事故まで段階について。
昨今、「働き方改革」というものに取り組んでいない企業は無いのではないかと思います。
働き方改革、それが何を意味するのかは必ずしも定まっておらず、一部では、時間外勤務手当を払いたくない=人件費削減のために「改革」を掲げているところもあるように聞いております。
人件費削減目当ての働き方改革では、そもそも「仕事のやり方」を見直そう、という発想には至らないことが多く、ただ「残業は禁止、早く帰れ」ということだけが強調されてしまう傾向が。
やり方を変えないのに残業はできない。
最初の段階では、スタッフたちは「手を早く動かす」「昼休みを短くする、そもそも昼休みを取らない」という手段を採るしかありません。
そんな手段で時間外勤務が削減できるなら、苦労はしません。
あまり、効果はあがらないわけです。
そうすると管理職はイライラ。「なぜ残業が減らないんだ!」と。
何も対策をしない管理職と、ぎりぎりでこなしているスタッフの間で相互不信が巻き起こります。
さらに無策なままでの残業の削減を強制されると、次の段階でスタッフが採る手段は、「仕事のランダムな選別」です。
スタッフは情報が限られていて全体が見えず、捨ててもいい仕事、後回しにしていい仕事を判別できないことが多いのに。
やらなきゃいけない手順を飛ばす、チェックをしないで処理してしまう。
そろそろ事故発生の危険性が高まってきました。
最後の段階は、仕事そのものを隠して放置する。
こうなると、顧客とのトラブル発生、事故発生が目の前です。
今、あなたの職場はどの段階にあるでしょうか。
それとも、こんな話とは無縁でしょうか。
嫉妬という厄介な感情とつきあっていくことについて。
お金持ち。
素晴らしい恋人/配偶者がいる。
やりがいのある仕事をしている。
頭が良くて、一度聞けば理解できる。
人の属性や境遇は、いろいろです。
自分が持っていない属性を持つ他者、あるいは自分がその人より劣っている、少ない。
羨ましい、と感じるのは、自分がその属性を欲しくても得られない場合でしょうか。
嫉妬を感じると、苦しいばかりで良いことはありません。
求めても得られないという渇望感に加えて、嫉妬という卑しむべき感情に自分が捉われているという罪悪感のようなものも。
嫉妬することで、二重の苦しみを味わってしまうわけです。
他者の境遇について、「羨ましい」という嫉妬の感情をまったく感じないというのは、神ならぬ生身の人間であれば、やむを得ないことかもしれません。
私も、ある属性や境遇にはひどく嫉妬してしまいます。
嫉妬の感情が沸き起こったら、自分はなぜ、どうして、何に対して嫉妬しているのか。
そう自問自答することで、この厄介な感情とうまくつきあっていくしかないのか、とも考えております。
銀行の貸出金利の構成要素について。
文章で書いているだけだと分かりにくいので、エクセルで表してみました。
銀行ローンの金利の構成要素についても、説明の仕方がいろいろありますが・・
銀行の金利=「貨幣の時間的価値+信用コスト+預金利息+銀行の経費(人件費、物件費、租税公課等)+銀行株主の要求する資本コスト」で構成されているとします。
①まず、信用コストを貸出金利に折り込んで借り手に要求する場合です。
銀行の費用 | 銀行の収益 |
貨幣の時間的価値 | 貸出金金利 |
信用コスト | |
預金利息 | |
銀行の経費 | |
・人件費 | |
・物件費 | |
・租税公課 | |
株主の要求資本コスト |
②次に、借り手が別途、保証会社へ保証料を支払う場合です。
銀行の費用 | 銀行の収益 |
貨幣の時間的価値 | 貸出金金利 |
預金利息 | |
銀行の経費 | |
・人件費 | |
・物件費 | |
・租税公課 | |
株主の要求資本コスト |
借り手の費用負担 | 保証会社の収入 |
信用コスト | 保証料 |
他の条件が同一である限り、①の場合(金利)も②の場合(金利+保証料)も、借り手が負担する費用総額は変わりません。
続きます。
これには、ここまでは書いてありませんw
質の良い資本市場を支えているのは。
資本市場とは、企業が事業に必要な資金を調達するために、株式や社債などの証券を発行できる市場、またはその証券を売買するための市場です。
具体的には、東京証券取引所などの株式市場のことですね。
資本市場は、金融商品取引法や東証規則などの法令・自主ルール、企業会計基準などの会計ルール、企業による様式が統一された財務報告、公認会計士による監査制度などに支えられています。
これらのルールは、黙っていても市場に適切に供給されません。
法令、会計基準、財務報告制度、監査制度などは、それにかかる直接の費用を負担しなくとも利用できてしまいますし、利用を妨げることもできません。
公共財としての性質をもっているため、価格をサインとして適切な水準まである経済主体が自主的に供給するということは起こり得ないわけです。
なので、これらのルールは税金や資本市場参加の会費等で支えられています。
公のお金を使っているわけですね。
また、資本市場を利用して資金を調達しようとする者は、定められた法令、ルール、会計基準をまもり、監査を受けなければならないことになっています。
それを守るつもりのない者は、資本市場から退場させられます。
資本市場の利用は、強制されているわけではありません。
事業を行うために必要な資金は、自分で用意してもいいし、仲間内だけで集めてもいいわけです。
法令や会計基準が自分の意に合わないというなら、自分と仲間だけでやるという自由がありますね。
しかし、それで集められる資金は大きなものにはなりません。
新しい事業を起こして、社会に価値を提供するためにはやはり大きな資金が必要になりますから。
社会に大きな価値をもたらすであろう事業に必要な資金を集められるように。
さらに、株価という価格サインを参考にして、より効率的に資金を活用できる企業へ資金が配分されるように。
株式や社債を発行、流通させる資本市場というものが、公的なお金を使って整備されているわけです。
その資本市場を支えているのは、公務員や公認会計士だけではありません。
企業の中にいて、財務報告という形で資本市場に情報を提供している者。
価格サインを見て、有価証券を売買している一人ひとりの投資家。
資本市場のルールを守らない者は、それら資本市場の参加者すべてを愚弄しているといえます。
kabumatome.doorblog.jp
私も、一人の資本市場参加者として、支え手を愚弄しようとしている人々を、よく見ておこうと思います。
本日の参考文献はこちら。
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お金に関する仕事能力の汎用性のようなものについて。
銀行員受難の時代のようです。
www.yomiuri.co.jp
いえ、1997年金融危機の前後から銀行倒産は現実のものとなっており、銀行員が安定した職業だというのは昔日の話なのですが。
ここ10年ばかり、大きな金融危機が起きていないので、また忘れられているのかもしれません。
さて、銀行員は預金を集める、企業や個人へお金を貸し出す、投資信託や保険などの金融商品を販売するなど、「お金に関する仕事」をしています。
なので、世間の一部では銀行員は次のような能力があるものと期待されているとも聞きます。
①企業の資金調達や資金繰り、財務分析ができる。
②決算書を作ったり、税務処理の実務ができる。
③経費処理の伝票なんか、ちょろいもの。
・・企業融資の実務ができる銀行員なら、企業の「お金に関する仕事」なら何でもできる、そう思われていた時期もあったようです。
ところが、元銀行員が経理部長や財務部長として迎えてみたところ・・上記の①②③なんてまったくできない!というケースが多発したとか。
毎月の所得税源泉徴収もできない、税金の種類も勘定処理の科目もわからない、そもそも伝票が切れない。
まして、決算を組むことなんてできない。
元銀行員には「お金に関する仕事能力」の汎用性など、まったくないというのが本当のところのようです。
これは、銀行員が「無能だ」ということではないようにも思います。
銀行は小さめの地域金融機関でも、世間の標準からすると大きな企業組織であり、その組織の中で仕事は分業されています。
地場で「お金に関する能力」を求めたい中小企業が期待するような、なんでもこなせる、汎用的な仕事はやったこともないし、そういうのは銀行からは求められてもいないからです。
なので、個々の銀行員を「無能」呼ばわりするのは、ちょっと気の毒なのかもしれません。
とは言うものの、転職するなら、なにか自分の能力のようなものをアピールしなければなりません。
やはり、銀行員は「お金に関する能力」でしょう。
冒頭の記事にあるように転職登録をする銀行員、何をアピールできるのでしょうか。
私自身も、考えてみたいと思います。