すらすら日記。

すらすら☆

経済合理的に動く麻薬カルテルと対決するためには・・

本日のお題はこちら。

ハッパノミクス――麻薬カルテルの経済学

ハッパノミクス――麻薬カルテルの経済学

失敗には死で報いる残忍なボスが君臨する麻薬カルテル
映画などで流布するイメージです。

しかし、逮捕されたカルテルの元構成員へのインタビュー調査によれば、「裏切り」は死で報いられますが、「失敗」は意外にも赦されるとのこと。
これは、違法行為で常に警察・軍に追われ、敵対組織との激しい抗争からも取引は不確実で、新しい構成員のリクルートも困難であることから、失敗する度に「処刑」していたのでは組織が成り立たない、との推測です。

また、中南米~メキシコなどの一部の政府の統治が及ばず、麻薬カルテルが事実上支配している地域では、麻薬カルテルはただ暴力と恐怖で市民を威圧しているのではなく、無秩序な収奪をせずに規律を持って「税」(みかじめ料)を徴収して治安を維持し、老年者には「年金支給」すらしている、と。

組織のイメージアップのためにマスコミを抱き込んで自分たちの「ブランド」を作り上げ、敵対組織を悪しざまにいう宣伝をしている。
そのため、麻薬王は市民からヒーローのように崇拝を集めている。

また、必要とあれば対立する麻薬カルテルと休戦したり、地域分割の不可侵協定を結んだりもする。

麻薬カルテルは意外に「経済合理的」であり、その行動は多国籍企業の活動に似ている、と。

これに対し、メキシコの「麻薬戦争」宣言のような武力弾圧・強硬策ばかりの警察・軍当局の姿勢は、莫大な費用をかけている割に効果があがらず、むしろ市民が巻き込まれて被害を受けたり、カルテル同士の抗争を激化させ死者を増やしてしまっているとも。

本書後半ではネットの発達による闇サイトでの麻薬や脱法ドラッグ販売の様子も書かれています。
「評価」や口コミでの闇売人のランク付けなど、一般のインターネットショッピングと変わりません。

ちらりとしか述べられていませんが、「安全な」麻薬を合法化してしまえば、麻薬カルテルの存在意義はなくなってしまう。
経済合理性を考えるならば、殺人、誘拐、恐喝などの原因となっているのは麻薬が「非合法」であるため。
「誤用」して死に至るような脱法ドラッグが売られているのも同様です。

本書は、麻薬合法化の是非そのものについては詳しくは述べられていません。
経済合理的に行動している麻薬カルテルや闇サイトと対決するためには、武力行使や強硬策だけでいいのか。

麻薬のみならず、「社会的に望ましくないが、人間の欲望がある以上、根絶は難しい」とされるさまざまな事象への対処方法を考えるために面白い書であると思います。


周囲とはちょっと違う自分を確認するために。

本日のお題はこちら。

憎しみに抗って――不純なものへの賛歌

憎しみに抗って――不純なものへの賛歌

「自分とは違う存在」を作り出して攻撃するという風潮がみられるようになっています。

私自身は、日本人で、男性で、正社員で、異性愛者で、専業主婦の妻がいて、子供が二人いて、政治的には極端な意見は持たず、特定の宗教に強い信仰を持つわけではなく、世俗的で、それなりに自由と民主主義の価値を信じている。

この社会では多数派なのでしょう。
それでも、世間一般で人気があるサッカーやゴルフには関心を持てないし、職場の人たちと飲みに行っても話題がなくて苦痛だったり。

表面的な属性では多数派でも、細かいところでは「違う存在」として疎外感や差別の目線を感じたりすることもあります。

同調圧力を受けることもあります。

なぜ、違う感覚を持っているのか、と。

著者はこう述べております。

公共の場での多様性が目に見える限り、そして私自身の個性と望み、ときには他者と違う信条を持つ私という個人の自由が守られていると感じる限り、安心していられる。自分の生きる社会が多様な人生の設計、信仰、政治信条を認め、受け入れてくれると感じていられれば、少しばかり強くなれる気がする。

本書は、ドイツで難民を乗せたバスを市民が取り囲んで罵声を浴びせたクラウスニッツ事件など、AfD(ドイツのための選択)などの排外主義政党の台頭など、ドイツ・欧州で起きている「自分とは違う存在」を作り上げて攻撃するという事態を背景としています*1
私は断片的なニュースでしかこのあたりの情報を知らないため、しっかりと理解できたかは怪しいところもあります。

「みんなと同じ」であるとして安心したい人々がたくさんいるのでしょう。

でも、私自身も社会の多数派でありながら、周囲とは自分が違う存在であることも知っています。

実は、「均一な多数派」なるものは虚像で、そのなかのそれぞれの存在は、誰一人とて同じ人間ではない。
自分を確認するためには、他者もまた違う存在であることを個々に認識していくしかない。

欧州の政治文化的背景が知らないと、ちょっと理解しづらい文章もありましたが、本書でそんなことを認識することができたように思います。


*1:本書は、ドイツでの難民排撃だけではなく、ISのリクルートや教育訓練の仕組み、白人警官による黒人の暴力、性的少数派への差別の話なども述べられています。

糾弾されているのは、自分ではありません。

毎日、心がザワザワするようなニュースが流れています。

私とて人並みの正義感はあるつもりですので、望ましくない行動をした人物や組織には「いかんなあ」ぐらいの感想は抱くわけです。

問題は、その次です。

報道を聞いて怒りを募らせた人々が、その「アレな行動」をやらかした当事者だけではなく、その当事者が帰属している集団、業界、世代、民族、国などの「大きなもの」がそれと同一の「悪」であり、同じく糾弾されなければならない、と。

対象が大きくなれば、帰属している個人はどんどん増えていきます。


バブル世代が無能だからだ。

銀行員は全員、陰湿な連中ばかりだ。

男だから、甘やかされているんだ。

日本は地獄のような国で、黙って耐えている日本人は奴隷だ。


私が帰属している属性も、よくこうやって糾弾されています。

以前は、そういう一般化された言説に感情的な反発をして、言い返してしまったこともあったように思います。

でも、ザワザワするニュースが流れる度に同じパターンでの糾弾が繰り返されることに気づいていから、反応してはいけないな、と思い直しました。

叩きのめされてる存在は、怒っている人の目の前には実在しているかもしれません。

あるいは、その正義の人の心の中に作り出された虚像なのかも。

いずれにせよ、それは私ではありません。

怒りに怒りで返せば、同じ場所で回転しているだけです。

私は、私にできることをしようと思います。


言葉の正確な用法と、専門外の人々への態度について。

厳密な定義がある専門用語が存在する会計や税務の仕事に長いこと就いておりますので、間違った言葉の使い方をされるととても気になります。

制度会計では、不特定多数の投資家に対して財務報告の開示を行いますので、投資家が誤解や誤誘導をしないように厳格な言葉の使い方をせねばなりません。
ある事象・ある取引に対しては対応する専門の言葉があり、決まった用法で使わなければならないので、言葉の用法にはとても気を使ってきました。

会計や税務に限らず、専門外の人々にとって、似たような言葉の厳密な区分はわからないでしょう。
その言葉の用法が不正確だからといって、専門従事者と同水準の厳格さを求めるのは、酷であるというものです。

専門外の一般の人々が、不正確な言葉の使い方をしているとして、専門従事者があからさまに無知を嗤ったり罵倒したりすれば、その分野に触れることに対して萎縮効果が起きてしまったり、その専門従事者や分野そのものへの反感を惹起したりしてしまうのではないでしょうか。

ただ、弁護士や大学教授などのある分野の専門家が、その肩書を使って他の分野へ訳知りのコメントを出したり、多数の読者を持つ大新聞が間違った言葉の使い方をしていたら、これはその「権威」により多くの人々へ影響を与えてしまうので、専門従事者から厳しく批判されるべきでしょう。

たとえば、会社法専門の大学教授が、TVに出演して専門分野外の法令や制度に無知と誤解に基づくコメントを出したり、経済を専門とすると称する新聞が「繰り延べ税金資産」「積み立て不足」などという存在しない用語を繰り返し使用したり。

こういう場面では、的外れなコメントや誤用は厳しく批判されなければならないと考えます。

でも、大きな影響力を持たない一般の人々が、ちょっと背伸びして専門外のことへちょっと触れたら、その道のプロが誤用を正すために飛んできて「バカだ」「無知だ」と罵倒すべきなのでしょうか。



私の知っていることなど、世の中のほんの一部しかありません。

自分の専門外のことはいっさい触れてはならない。

そうなってしまったら、ずいぶん息苦しい世の中になってしまうのではないかと思います。


「12歳でも財務諸表が読めるようになる」会計入門書のご紹介。

本日のお題はこちら。

会計の知識が欲しい、財務諸表を読めるようになりたい、数字に強くなりたいというニーズは多くの人々にあるようです。
巷には、これに応えようと「会計入門」「これだけでわかる」と銘打った会計入門書が多数出回っておりますが・・わかりやすくし過ぎて漠然とした内容しかないもの、細かい会計用語や財務分析指標の説明だけに終始して全体感が掴めないものなども多く、外れを引いてしまうと会計嫌いになってしまうことも。

また、会計知識習得の大きな「壁」である複式簿記について、仕訳という反復練習をしなければ習得しにくい技術をなんとかわかりやすくしようとして意味不明になってしまっているものも多いですね。

本書、「会計の基本」、「借金を返すと儲かるのか?」などの会計入門書を書かれている公認会計士・岩谷誠治先生による「12歳でも財務諸表が読めるようになる!」という1冊です。

こちら、巷にあふれている会計入門書の上記の弱点を上手く克服、会計の専門用語や仕訳の技術を使わずに「会計ブロック」「似顔絵分析」で財務諸表の全体を手短に把握できるように工夫されております。

「借金を返すと儲かる?」というよくある誤解についても、借入金返済をテトリスのブロック消しにたとえて説明しており、仕訳を使わずに理解させる説明術に感心させられました。

他分野の方だけ、最低限、財務諸表が読めるようになりたい!というニーズを満たしてくれることと思います。

岩谷先生の会計入門書、こちらも合わせてどうぞ。
sura-taro.hatenablog.com


メルカリのポイント、消費税処理のちょっと難しいお話。

新規上場で話題のメルカリの消費税処理について、こんな報道が出ていました。
www.sankei.com

国税当局との見解の相違が起きたのは、メルカリが利用者に向けて発行するポイントに関する消費税の処理方法についてです。
よく期間限定で500ポイントプレゼント!などという通知がきてますね。
メルカリポイントは、1ポイント1円として商品購入に使えます。

会計上、メルカリはポイントを販売促進費として費用計上してます。
問題は、税務処理についてです。
消費税は、売上(収益)にかかる消費税から、仕入(費用)にかかる消費税を差し引き、その差額分だけを納付することが義務付けされています。

例示しますと・・顧客が10,000円の商品を売却すると、メルカリはその10%の1,000円を手数料として売上げ計上します(税込)。
売上にかかる消費税は、1000÷108×8=74円です。
この際に、購入者が500ポイントを支払の一部としてあてたとすると、メルカリは500円を販売促進費として計上します。
メルカリ側は、これを消費税法上の「課税仕入れ」と判断し、500÷108×8=37円の仕入税額控除をとっていました。

仕訳で表すと、次のようになります。

(借方)未収金 9,500 (貸方)未払金 9,000
(借方)販売促進費 463 (貸方)売上 926
(借方)仮払消費税 37 (貸方)仮受消費税 74

この税務処理方法によると、納税額は74円-37円で、差額の37円を納付することになります。

しかし、国税側はポイントについて、消費税法上の「課税仕入れ」には該当しないとして仕入税額控除を否認したもようです。
この場合、国税側の論拠は、「ポイントの原始発行は、課税取引の要件である「資産の譲渡等」に該当しないので課税仕入にはならない」というものであると考えられます。

私としても、条文解釈として、課税仕入れは、課税売上と「鏡」になっているので、明確な対価性がないポイントの原始発行は課税仕入れには当たらないと考えます。
メルカリ側がどういう論拠でこれを課税仕入れに当たると考えたのかは報道やメルカリのプレスリリースではわかりません。
about.mercari.com

メルカリ側、更正処分を受け、修正申告には応じていないようですからひょっとすると裁判に訴えようと考えているのかしれません。

注目したいと思います。

記者が課税仕入れの仕組みをよく理解していなかったのか、最初の記事では意味不明でしたが、今は少し修正されているようですね。
超初心者でもわかる消費税の入門書は、こちらをどうぞ。


すらすらわかる朝日新聞の決算と今後のゆくえ。(速報版)

朝日新聞の2018年3月期決算短信が公表されました。

朝日新聞は上場企業ではありませんから、関連会社である上場企業、テレビ朝日HDが「親会社等の決算に関するお知らせ」という形での開示となります。

http://www.tv-asahihd.co.jp/contents/press/2018/asahishinbun3003.pdf
こちらです。

朝日新聞、売上は3,839億円、3%弱の減少。でも最終利益は120億円と35%増益になっています。
ここでは、本業の収益力を示す営業利益に着目してみます。
営業利益は、78億円(+12%)の増益です。

営業利益の増加は、本業の効率化により達成されたものでありません。
朝日新聞、2017年7月に退職給付制度を改定しており、これにより退職給付債務が355億円、減少しております。
退職給付債務の減少ということは、会社からみて負債の減少、従業員からみると退職金の切り下げです。
EDINETで開示されている朝日新聞の半期報告書から引用します。

(追加情報)
当社は、平成29年7月11日に退職金規定の改訂を行った。
これに伴い、退職給付債務が35,532百万円減少する。この退職給付債務の減少は過去勤務費用に該当するため、当社の定める会計方針に従い、5年間にわたり定額法により費用の減額として計上する。

朝日新聞の会計方針では、過去勤務費用は、発生した年度から5年で償却されます。
負債減少ですので、会計上は販間費に含まれる人件費の減少。
7月からの制度改正ですので2018年3月期には、355÷5×9÷12でざっくり50億円の人件費減少として計上されていると推計されます。

さて、2018年の営業利益は78億円でした。このうち、50億円が制度改定による人件費減少効果ですね。
本業では、ほとんど営業利益が出せていないということが読み取れます。

次に、セグメント分析を行ってみます。
朝日新聞、所有する都内の一等地からの安定した賃貸収入が出ており、新聞などのメディアセグメントに次いで売上げが大きいのが不動産セグメントですね。
開示された短信ではセグメント情報は載っていません。
昨年度、2017年3月期の有価証券報告書では、営業利益70億円のセグメント別内訳として、メディア16億円、不動産49億円、その他5億円と開示されています。

今般の退職給付制度改定では、従業員の割合に応じて営業利益の改善効果があるものと考えられます。
セグメント人員は、メディアセグメントが8割、不動産、その他が10%づつです。
先ほど書きました、50億の営業利益改善効果は、8割40億円がメディアセグメントへ帰属することに。
一方、不動産セグメントは大きな不動産の異動は無いようですので、昨年度同レベルの営業利益を確保できているものと推測されます。
これらから、まだ開示されていない2018年度のセグメント別営業利益を推計してみました。

2017年3月期 2018年3月期
メディア 16 15
不動産 49 54
その他 5 9
営業利益計 70 78

2018年3月期は推測です(金額は億円)。メディア事業は、退職金切り下げによる40億円費用削減効果があっても営業利益は横ばい。制度改定効果を控除すると、25億円程度の赤字ではないかと推測されます。
いよいよ、新聞業では利益が確保できなくなっているようですね。


では、次に朝日新聞はこのままズルズルと部数を減らして経営が成り立たなくなるのか・・ということです。
それは、朝日新聞の経営破綻は、次の理由により考えにくいです。

不動産賃貸業で約50億円の営業利益を安定して確保できていること。
持分法関連会社からの利益が約60億円もあること(うちテレビ朝日が40億円)
過去の利益剰余金、いわゆる内部留保が約3200億円もあること。
有価証券の含み益が1400億円もあること(いずれも2018年3月期)。
まだまだ退職金切り下げなど従業員の処遇を下げる余地があること。

というところでしょうか。

こちらは公開されている財務報告から一定の仮定を置いて推測したものです。
いっさいの投資判断の助言を行うものではなく、推測の正確性は保証できません。

答え合わせは、6月末の有価証券報告書開示を待ちたいと思います。


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