すらすら日記。

すらすら☆

単純化された嘘と複雑な現実について。

また、消費税の輸出免税の仕組みから発生する還付金について、これを「輸出戻し税」という名称で呼び、トヨタなど輸出大企業が不当に利益を得ているかのようなweb記事タイトルを見かけました。

これは、人々が複雑な消費税の専門的・技術的な仕組みに通じていないことにつけ込んで、輸出企業が不正な利益を上げているかのような印象操作を行おうとする、悪質なものであると断じざるを得ません。

以下、なぜこの還付金が生じるのか、簡潔に説明します。

消費税は、「受け取った消費税」から「支払った消費税」を控除し、差額だけを国庫に納付するという仕組みになっています。
「受け取った消費税」が「支払った消費税」より少ない場合、控除し切れなった差額は還付されますね。

輸出は、国際的な税の決め事として、消費税(付加価値税)は実際に消費される国で課税されることが原則となっています*1
そのため、輸出に際しては消費税が「免税」になっています。

トヨタなど輸出が多い企業は、輸出先から消費税を受け取ることがありません。そのため、恒常的に「受け取った消費税」が「支払った消費税」よりも少なくなり、還付金が発生することになるわけです。

還付金は、自社が仕入先に払った税額相当が控除し切れずに戻ってきているだけなので、企業会計上も課税所得計算上も利益になるものではありません。

消費税の仕入税額控除は、輸出大企業だけに認められた特典ではありません。
国内だけで事業をしている企業も公平に適用されています。

消費税だけではありませんが、税法は複雑で専門的な計算規定を備えており、税を専門にしない一般市民に容易に理解できるものではありません。

また、消費税は、人々が身近に接する税ではありますが、まだまだ歴史が浅く、導入や税率引き上げに際しては激しい政治的反対を受けてきました。

複雑な現実を無視し、消費税への嫌悪感を利用して、「還付金という現金を受け取っている=不正な利益だ!」という表面の事象だけをなぞった「単純化された嘘」。

「大企業は不正を働いている、自分たちは虐げられた弱者だ」という気持ちのいいストーリーを読めば、情報に疎い人々も、一瞬の満足感を得られるのかもしれません。

気持ちの良い嘘のストーリーを定期的にwebに書くジャーナリストを自称する人々の側と、ストーリー供給を待っている情報に疎い人々の側。

何度も繰り返される「輸出戻し税」の悪質な印象操作記事は、両サイドの人々が存在することによって成り立っています。

これも、この社会の複雑な現実の一幕なのではないか。

そう感じております。


大企業の税負担をめぐるデマに関しましては、こちらの過去ログもご覧ください、

sura-taro.hatenablog.com



*1:少数意見ですが、輸出免税という「国際的な税の決め事」自体が税の公平性に反するという立法論もあります。輸出取引を免税では無く金融取引などと同じく非課税とし、仕入税額控除を取れない仕組みとする税制とする提案もあります。こちらの立法を行った場合の経済的帰結については様々な影響が考えられますが、本稿では輸出企業の競争力に不利に働くということのみ述べておきます。

すらすら日記。は、Amazon.co.jpを宣伝しリンクすることによってサイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイト宣伝プログラムである、Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。